
米国ワシントン州の「有害汚染法」に基づく「ワシントン州のためのより安全な製品」規則(SPWA)について
【1.米国ワシントン州の「有害汚染法」に基づく「ワシントン州のためのより安全
な製品」規則(SPWA)について】
はじめに:
製品に含有する有害化学物質規制については、ストックホルム条約とそれに基づく
各国法規、欧州のREACH規則、RoHS指令、ELV指令(現在、規則化に向け改定中)、米国
TSCAや我が国の化審法等がある。また米国では、連邦に加え州レベルでの規則があ
る。今回は、ChemSHERPAやIMDS調査で対象となる米国ワシントン州(西海岸最北部の
州で、主要都市はシアトル市)の「有害汚染法」*1に基づく「ワシントン州のための
より安全な製品」規則*2について整理した。
法規概要:
「ワシントン州のためのより安全な製品」規則は同州の「有害汚染法:Revised
Code of Washingtonの Title 70A, Chapter 70A.350」の”Toxic Pollution”
70A.350.010~70A.350.900に基づいている。Chapter70A.350の各章は、「用語の定義
(70A.350.010)」、「優先化学物質の立法府への報告(70A.350.020)」、「優先消費
財の特定-立法府への報告-免除製品(70A.350.030)」、「規制措置-立法府への報告
-優先物質の制限・禁止(70A.350.040)」、「優先消費財の特定-規制措置-規則-公
示(70A.350.050)」、「情報/記録の機密保持(70A.350.060)」、「罰則
(70A.350.070)」、「ルールの採用(70A.350.080)」等の一般則と個別物質の関する
規則「PFAS化学物質(70A.350.090)」、「消費者向け製品中のPCB廃絶または削減
(70A.350.100)」、「6PPDを含有する車両用タイヤ(70A.350.110)」となってい
る。
この法規は、以下に述べる3点を目的としている。① より安全な代替化学物質が
利用可能になった場合、特定の有害物質を制限または排除することで、消費者製品に
おける有害物質の使用を廃絶もしくは削減すること ② 有害な化学物質を環境から
排除する道筋をつくること ③ 消費者製品中の化学物質を原則5年周期で見直し規
制することである。 ③の5年毎の有害化学物質を特定し規制するプロセスは、以下
の手順で行われる。フェーズ1:優先化学物質の特定 フェーズ2:使用している製
品の特定 フェーズ3:規制措置の決定 フェーズ4:規制法規制定 としており各
フェーズで技術的調査、パブリックコメントの実施、関連省庁とのすり合わせ、立法
府への報告となっている。規制対象物質とその適用規則は、WAC Title173 Chapter
337*3に定められています。このうちChapter 337 の 010~065は運用上の取り決
め、 110~114には対象物質の規制用途が記載されています。現時点での収載物質
は、110:PFAS類、111:フタル酸エステル類、112:難燃剤、113:アルキルエトキシ
レート(非イオン界面活性剤)、114:ビスフェノール類であり、各々について、制
限及び報告要件が定められています。
化学物質の評価現状:
これまでに、サイクル1、1.5(5年周期外の決定)が決定しています。現在はサ
イクル2のフェーズ3の段階です。以下にサイクル1と1.5の概要を示します。
サイクル1:(公示:2023/5/31、発効:2023/7/1、制限開始:2025/1/1、報告対象
物質の報告期限:2025/1/31)
対象物質:PFAS類、オルトフタル酸エステル類、難燃剤、アルキルエトキシレート
類、ビスフェノール類
<制限>
対象内容:PFAS類、オルトフタル酸エステル類、難燃剤、ビスフェノール類を添加し
た、消費者製品カテゴリー製造、販売、流通の制限
対象製品:
① PFAS類:
・一般消費者向け防汚、防水処理剤(意図的にPFAS類を添加したもの)
・カーペット及びラグ(意図的にPFAS類を添加したもの)
・屋内用の皮革および繊維製の家具および調度品
(意図的にPFAS類を添加したもの;2026年1月1日以降)
・屋外用の皮革および繊維製の家具および調度品
(意図的にPFAS類を添加したもの;2026年1月1日以降)
② オルトフタル酸エステル類:
・美容用芳香剤および芳香パーソナルケア用品で香料成分の溶剤もしくは固定剤と
してオルトフタル酸エステルを使用したもの(成分表示に記載されていない場合、オ
ルトフタル酸エステルを検出した時点で、意図的添加とする)
・塩ビ床材で、均質材料中に(単独もしくは複合)1000ppmを超えるオルトフタル
酸エステルを含んだもの
③ 難燃剤:
・特定のプラスチック製の外装を有する屋内用電気/電子製品(製品の除外規定あ
り)で意図的に有機ハロゲン系難燃剤を含んだもの(均質材料中のハロゲン濃度が
1000ppmを超えた場合、意図的添加として取り扱う。)
・特定の難燃剤を含有するポリウレタン製のレクリエーション製品(床材、マッ
ト、屋外用製品等)(有機ハロゲン系難燃剤、一部の有機リン酸系難燃剤「エチルヘ
キシルジフェニルホスフェート;EHDPP:CAS#1241-94-7」、「イソプロピル化トリ
フェニルリン酸;IPTPP:CAS#68937-41-7」、「リン酸トリブチル;TNBP:
CAS#126-73-8」、「トリオルトクレシルリン酸;TCP:CAS#1330-86-6」、「リン酸ト
リフェニル;TPP:CAS#115-86-6」(均質材料中のハロゲン濃度が1000ppmを超えた場
合、均質材料中の有機リン酸系難燃剤が単独もしくは複合で1000ppmを超える場
合、意図的添加として取り扱う)
④ アルキルエトキシレート類:
・洗濯用洗剤にアルキルエトキシレート類(単独もしくは複合)が1000ppmを超え
て含有するもの
⑤ ビスフェノール類:
・飲料缶(ビスフェノール系エポキシによる缶ライナー処理)
・感熱紙
<報告>
対象物質:意図的にPFAS類、オルトフタル酸エステル類、難燃剤、ビスフェノール類
を添加した、消費者製品カテゴリー製造、販売、流通時に報告
① PFAS類:
・対象製品なし
② オルトフタル酸エステル類:
・対象製品なし
③ 難燃剤:
・特定のプラスチック製の外装を有する屋外用電気/電子製品(除外製品規定あり
)で意図的に有機ハロゲン系難燃剤を含んだもの(均質材料中のハロゲン濃度が
1000ppmを超えた場合、意図的添加として取り扱う)
・特定の難燃剤を含有するポリウレタン製のレクリエーション用壁パッド類(有機
ハロゲン系難燃剤、一部の有機リン酸系難燃剤「エチルヘキシルジフェニルホス
フェート;EHDPP:CAS#1241-94-7」、「イソプロピル化トリフェニルリン酸;IPTPP:
CAS#68937-41-7」、「リン酸トリブチル;TNBP:CAS#126-73-8」、「トリオルトクレ
シルリン酸;TCP:CAS#1330-86-6」、「リン酸トリフェニル;TPP:CAS#115-86-6」
(均質材料中のハロゲン濃度が1000ppmを超えた場合、均質材料中の有機リン酸系難
燃剤が単独もしくは複合で1000ppmを超える場合を意図的添加として取り扱う)
④ アルキルエトキシレート類:
・対象製品なし
⑤ ビスフェノール類:
・食品缶(ビスフェノール系エポキシ缶ライナー)
サイクル1.5:(公示:202511/20、発効:2025/12/21、制限開始:2027/1/1、報告
対象物質の報告期限:2027/1/31)
対象物質:PFAS類
<制限>
制限内容:意図的にPFAS類を添加した、消費者製品カテゴリー製造、販売、流通の制
限
対象製品:① アパレルおよびアクセサリー、② 自動車用洗浄剤、③ 洗剤
<報告>
報告対象:意図的にPFAS類を使用した場合
対象製品:① 過酷な環境下での使用を目的とした衣料品、② 自動車用ワックス、③
調理器具とキッチン用品、④ 消防用個人保護具、⑤ 床用ワックスとポリッシュ
剤、⑤ 履物、⑥ レクレーション及び旅行用品、⑦ ハードサーフェイスシーラー(
表面硬化処理剤)、⑧ スキーワックス
「報告」の内容
報告内容については、WAC Title173 Chapter 337-060に定められており、報告義務
の発効日翌年の1月31日まで、その後は毎年1月31日までに、当該製品の製造者もし
くは製造者を代表とする業界団体(米国に拠点がない場合は、輸入者)が以下の内容
を報告する。(1)意図的に添加される物質の名称およびCAS番号(CAS番号がない場合
は一般名称)、(2)GS1商品分類による製品カテゴリー、(3)対象物質を含有する内部
構成要素、(4)対象物質の機能に関する説明、(5)意図的に添加された対象物質の濃度
範囲、(6)連絡先情報(報告者氏名、住所、電話番号、メルアド等)(報告が業界団
体の場合、団体構成製造者のリストと関連情報)、(7)報告者が関連すると考える情
報
現在審査中のサイクル2対象製品:
冒頭に述べたように、現在サイクル2の検討が行われ、2025年5月30日に当局から”
Safer Products for Washington Cycle 2 Final Identification of Priority Products Ultimate Report"が発行され、より安全な代替品の利用可能性について検
討の上、2026年末には規制措置を勧告し、パブコメが行われる予定です。検討中の製
品は以下に示すものです。
① 人工芝(6PPDおよびPFAS類)、② 化粧品(環状シロキサン)、③ 絶縁材料(電
線被覆材等)(有機ハロゲン系難燃剤)、④ 宝飾品およびアクセサリー(カドミウ
ムおよびその化合物、鉛およびその化合物)、⑤ ネイル製品(ベンゼン、エチルベ
ンゼン、トルエン、キシレン)、⑥ 建築用塗料(アルキルフェノールエトキシ
レート、およびPFAS類)、⑦ プラスチック包装材(有機塩素化合物および有機臭素
化合物)、⑧ シーラント、コーキング剤、接着剤(オルトフタル酸エステル)、⑨
固形消臭剤(有機塩素化合物および有機臭素化合物)、⑩ 自動車用タイヤ(6PPD:
SB5931による追加、有害汚染法RCW70A350.110参照)
(参考情報)
サイクル2での規制候補物質である6PPDについて:
ここでは、カリフォルニア州でタイヤ摩耗紛起源の6PPDによる「ギンザケの死
亡」が問題視され、生態影響が高いとされる6PPDについて用途と各国の規制議論に
ついて触れる。6PPDは、(C18H24N2)
N-(4-Methylpentan-2-yl)-N'-phenylbenzene-1,4-diamin
CAS#793-24-8で常温では茶色から紫の固体である*4。融点は45℃ 沸点は260℃であ
る。NITEのGHS分類では、急性毒性(経口)(区分4)、眼への刺激性(区分2B
)、皮膚感作性(区分1A)、生殖毒性(1B)、特定標的臓器毒性(反復暴露)(区
分2)、水生環境有害性(急性・慢性)(区分1)となっている*5。6PPDは、抗酸
化物質であり優れたオゾン化防止剤であり、ゴム(天然ゴム、スチレンブタジエンゴ
ム、ブチルゴム)の劣化防止剤として広く使用されている。6PPDは特に車両用タイ
ヤのオゾン化防止剤として用いられている*6。 6PPDはゴム内をブルーミングによ
り表面に移動し、タイヤ表面にゴムよりも早くオゾンと反応する捕捉防護膜を形成す
る。6PPDは酸化反応により、6PPDキノン(6PPD-Q:CAS#2754428-18-5)を生成す
る。ゴム中のブルーミングはタイヤ摩耗紛でも引き続き進行し、環境への移行が指摘
される。6PPD-Qは魚類への毒性を有し、タイヤ摩耗紛が雨水で環境に拡散し、
6PPD-Qを生成することが憂慮されている。米国カリフォルニア州では、6PPD-Qによ
るギンザケの死亡が報告されている*7。
車両タイヤ中の6PPDについては欧州REACH規則でも制限提案が行われている*8,9。
参考文献:
*1)Washington state, State laws and rules, RCWs, Title 70A, Chapter
70A.350 “Toxic Pollution”:
https://app.leg.wa.gov/rcw/default.aspx?cite=70A.350
*2)Department of Ecology state of Washington “Safer Products for
Washington”:
https://ecology.wa.gov/waste-toxics/reducing-toxic-chemicals/washingtons-toxics-in-products-laws/safer-products
*3)Washington state, State laws and rules, RCWs, Title 173, Chapter
173-337 “Safer Products Restrictions and Reporting”:
https://app.leg.wa.gov/WAC/default.aspx?cite=173-337
*4) NITE CRIP等
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C004-815-32A&bcPtn=0&shMd=0&txNumSh=NzkzLTI0LTg=<NumTp=1<NumMh=0&txNmSh=<NmTp=<NmMh=1&txNmSh1=<NmTp1=&txNmSh2=<NmTp2=&txNmSh3=<NmTp3=&txMlSh=<MlMh=0<ScDp=0<PgCtSt=100&rbDp=0&txScSML=&txScSML2=<ScTp=1&txUpScFl=null&hdUpScPh=&hdUpHash=&rbScMh=1&txScNyMh=&txMlWtSt=&txMlWtEd=&err=
*5) NITE-GHS分類:
https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/ghs/m-nite-793-24-8.html
*6)“6PPD in Tire Manufacturing”:
https://www.ustires.org/6ppd-tire-manufacturing
*7) “A ubiquitous tire rubber?derived chemical induces acute mortality in coho salmon” Science, Vol371, 185-189 (2020):
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abd6951
*8) Call for evidence on PPDs (incl.PDs) in rubber tire (by ECHA):
https://echa.europa.eu/documents/10162/9712f930-ae31-cfde-13f5-95227842e88c
*9) ECHA assessment of regulatory needs:
https://echa.europa.eu/documents/10162/1e967f47-50dd-4893-044f-d50248bd758f
(産業環境管理協会 国際化学物質管理支援センター)
(2026年10月)