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BRICS+のEPR制度 (その1:ブラジル・インド・インドネシア)

BRICS+(ブリックス・プラス)は、現在、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフ
リカの初期5か国に、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦、インドネ
シア(2025年1月加盟)及びサウジアラビア(2025年7月加盟)の「11か国」で構成
されています。
また、タイ、マレーシア、ベトナムなど10か国以上が「パートナー国」として承認さ
れており、グローバル・サウスの枠組みとしてその勢力を拡大しています。
表記については、かつての「BRICs」から、規模拡大に伴い現在は「BRICS」または「
BRICS+」と称されるのが一般的です。
BRICSの人口規模は、インド(約14.4億人)と中国(約14.1億人)の2か国だけで世界
人口の3割を超え、ブラジル(約2.1億人)、インドネシア(約2.8億人)など主要国
を合わせると世界人口の約49%を占める巨大市場を形成しています。購買力平価(
PPP)ベースのGDPではすでにG7を凌駕しており、グローバル企業にとって無視できな
い存在となっています。
本稿では、実務上の問い合わせが急増しているブラジル、インド、およびインドネシ
アの3か国における「包装材の拡大生産者責任(EPR Extended Producer
Responsibility)制度」を中心に解説します。
その他の加盟国については、制度の概略と、最新情報を入手するための公式リソース
の案内に留めます。

I.ブラジル
§1 環境政策の特徴:社会と環境が融合した「逆物流」モデル
ブラジルの環境政策は、単なる廃棄物管理の枠組みを超え、経済的自立と環境保護を
両立させる「社会的包摂(Social Inclusion)」を中核に据えている点に最大の特徴
があります。
1.1 「逆物流(Logistica Reversa)」の本質
ブラジルでは、EPRと呼ばれる概念を「逆物流」と定義しています。これは、従来の
「工場→小売→消費者」という製品の動線に対し、消費者が使い終わった後の製品や
包装材を、製造業者や輸入業者が責任を持って「回収し、リサイクル、または環境的
に適切な方法で処分する」という逆方向のルートを指します。
この仕組みは単なる環境対策ではなく、廃棄物を貴重な「資源」と再定義すること
で、バージン材の消費を抑制し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を実現する
ことを最終目的としています。

1.2 共有責任(Shared Responsibility)の原則
ブラジルのEPR制度では、製品のライフサイクルに関わる全てのステークホルダーが
責任を分かち合う「共有責任」が法的に明文化されています。
(i)事業者(製造・輸入・販売): 回収システムの構築、リサイクル目標の達成、実
績報告。
(ii)消費者: 使用済み製品を正しく分別し、指定の回収場所(デリバリーポイント
)へ返却する義務。
(iii)政府: インフラの整備、制度の監督、および国家情報システムの運用。

1.3 カタドーレス(Catadores):循環社会の担い手
ブラジルのリサイクルで、最も重要な役割を担うのが「カタドーレス」と呼ばれる個
人回収業者です。カタドーレスは街中や集積場から資源を回収して生計を立ててお
り、ブラジルのアルミニウム缶やプラスチックの極めて高いリサイクル率を実質的に
支えています。
ブラジル法では、カタドーレスの協同組合を公式なビジネスパートナーとして優先的
に活用することが義務付けられており、環境政策が貧困対策や雇用創出という社会政
策と密接に結びついています。

§2 EPR制度に関連する基本的な法律
ブラジルのEPR制度は、2010年に制定された基本法を頂点とし、近年の大統領令に
よって具体的な運用ルールがアップデートされています。
2.1 国家廃棄物政策法(Politica Nacional de Residuos Solidos PNRS)( Law No. 12.305/2010)
PNRS(*1)は、ブラジルの廃棄物管理における最上位法であり、全てのEPR規制の法
的根拠です。この法律により、廃棄物処理の優先順位が「発生抑制 > 再利用 > リ
サイクル > 処理 > 最終処分(埋め立て)」と定められました。また、管理されて
いないゴミ捨て場の廃止や、海洋投棄、野焼きなどが厳格に禁止されました。

2.2 連邦令 No. 11.413/2023(実務ルールの基盤)
No. 11.413/2023(*2)は、PNRSを実効的なものにするために制定されたリサイクル
クレジット制度の新たなルールです。
(i)クレジットの創設: 企業が逆物流の義務を果たすために使用する証明書(
CCRLR、CERE、将来質量証明書)を規定しました。
(ii)社会的包摂の強化: カタドーレスの協同組合を優先的に支援することを基本原
則としています。
2.3 連邦令 No. 12.688/2025
No. 12.688/2025(*3)は、2025年に署名されたプラスチック包装材に対して具体的
な数値目標と強制力を付与した規制です。
No. 11.413で定義された「クレジットの仕組み」を、プラスチック包装材に具体的に
適用し、2026年以降のノルマを定めました。

§3 プラスチック包装材のEPR制度:具体的な義務と仕組み
連邦令第12,688号の施行により、ブラジルで事業を行う企業は、プラスチック包装材
に対して「回収」と「再生材使用」の両面で厳しい基準をクリアしなければなりませ
ん。
3.1 2つの主要な数値目標
企業は、自社が市場に投入したプラスチック包装材の重量に基づき、以下の目標を達
成する義務があります。
(i)回収・リサイクル率(Recovery rate): 市場投入量のうち、実際に回収・リサ
イクルされた割合。
-2026年目標:32%以上
-最終目標(2040年):50%
(ii)再生材含有率(Recycled content): 製品包装にリサイクルプラスチックが含
まれている割合。
-2026年目標:22%以上
-最終目標(2040年):40%
3.2 リサイクルクレジット制度の活用
企業が自ら全てのゴミを物理的に回収することは現実的に困難です。そこでブラジル
では、カタドーレスの協同組合が回収・選別した実績を「リサイクルクレジット(電
子証明書)」として市場で取引できる仕組みを構築しています。企業はこのクレジッ
トを購入することで、法的な回収義務を履行したとみなされます。
3.3 カタドーレスとの高度な経済連携
カタドーレスは、役割としては日本の伝統的な古紙回収業者などに近い役割ですが、
現代ブラジルでは「デジタル規制を支えるプロフェッショナル」へとアップデートさ
れています。
(i)選別能力: PET、HDPE、PPなど、プラスチックの材質を瞬時に見分ける高度な選
別技術を有しています。
(ii)法的地位: 企業が逆物流システムを構築する際、彼らの協同組合を優先的に活
用することが法律で義務付けられています。
(iii)社会的価値の取引: 企業は単にゴミを処理するのではなく、カタドーレスから
「リサイクル実績」という価値を買い取ることで、環境保護と社会的支援を同時に行
います。
3.4 報告と透明性の確保:SINIRの運用
全ての対象企業は、毎年7月30日までに国家廃棄物情報システム(SINIR)を通じて実
績を報告しなければなりません。
(i)報告内容:市場投入量、回収量(クレジット購入量)、再生材使用率。
(ii)監査:報告内容は政府認定の第三者機関による検証を受け、透明性が担保される
必要があります。

§4 2026年に求められる対応と実務的インパクト
2026年は、ブラジルのプラスチック規制が「努力目標」から「実質的な強制力を持つ
義務」へと移行する歴史的な転換点となります。
4.1 適用スケジュール
(i)2026年1月?: 大企業への適用開始。
(ii)2026年7月?: 中小企業(SMEs)への適用開始。 ブラジルで事業を行う日本企業
は、自社の規模に関わらず、2026年中の対応が必須となります。
4.2 日本企業が直面する実務的課題
(i)サプライチェーンの再考: 包装材に22%以上の再生材を含めるためには、既存の
サプライヤーとの交渉や、品質基準を満たすリサイクル材の調達ルート確保が急務と
なります。
(ii)法的パートナーシップの構築: 現地のカタドーレス協同組合や、リサイクルク
レジットを仲介する事業者との連携体制を構築する必要があります。
(iii)コンプライアンス管理: SINIRへの正確な報告を怠った場合、または目標を達
成できなかった場合、環境ライセンスの更新拒否や多額の罰金、最悪の場合は操業停
止などの厳しい行政制裁が課される可能性があります。
4.3 戦略的な対応の方向性
ブラジルのEPR制度は、単なるコスト増ではなく、企業のサステナビリティ(持続可
能性)を証明する機会でもあります。
(i)「グリーンジョブ」への貢献: カタドーレスのインフラ改善(選別機の購入支援
など)に投資することで、企業の社会的責任(CSR)としての評価も高まります。
(ii)エコ設計の導入: リサイクルしやすい単一素材(モノマテリアル)への切り替
えなど、上流工程での改善が将来的な回収コストの低減に直結します。

2026年からプラスチックを「消費して捨てるもの」から「循環させる資源」への義務
化がされました。

II.インド
§1 環境政策の特徴:世界で最もデジタル化された監視と「カテゴリー別管理」
インドの環境政策のなかで、プラスチック対策における最大の特徴は、中央汚染管理
委員会(CPCB)が主導する「中央集中型デジタル監視体制」と、素材の特性に応じた
「カテゴリー別厳格管理」の徹底にあります。
1.1 デジタル・ガバナンスの徹底
インド政府は、EPRの履行を「性善説」に頼らず、デジタル技術によって強制的に捕
捉する仕組みを構築しました。
(i)中央EPRポータルの運用: 生産者、輸入業者、ブランド所有者(PIBOs)は、
CPCBが運営するポータルへの登録と年次報告が法的に義務付けられています。
(ii)データ統合による「逃げ道」の遮断: このポータルは、インドの消費税システム(
GST)ネットワークおよび税関システム(ICEGATE)とデジタルで紐付けられていま
す。輸入申告(Bill of Entry)の際、有効なEPR登録番号がない場合は通関が自動的
に差し止められる、あるいは当局へ即座に通知が飛ぶ仕組みが運用されています。ま
た、国内販売データ(GST)からプラスチック使用量が推計されるため、過少申告に
よる義務回避は事実上不可能です。
1.2 カテゴリー別の精緻な管理
インドのEPR制度は、包装材を単なる「プラスチック」と一括りにせず、リサイクル
の難易度や形状に応じて4つのカテゴリーに厳密に分類します。各カテゴリーごとに
異なるリサイクル目標や再生材含有率が設定されており、企業にはそれぞれのカテゴ
リーにおいて個別のコンプライアンス達成が求められます。
1.3 「環境補償金」という強力な罰則
インドの規制は「努力目標」という概念ではなく、目標未達成時には、不足した
1kgあたりの量に応じ「環境補償金(Environmental Compensation)」という名目の
多額の罰金が自動的に課されます。
この補償金は、単なる罰金ではなく、リサイクルインフラの整備や環境復元に充てら
れることが法的に定められています。

§2 EPR制度に関連する基本的な法律
インドのEPR制度は、2016年に制定された基本法を核とし、2022年から2026年にかけ
ての累次改正によって、世界で最も複雑かつ厳格な運用ルールへと進化を遂げまし
た。
2.1 プラスチック廃棄物管理規則(PWM Rules, 2016)
PWM 2016は、インドにおけるプラスチック規制の最上位法です。「汚染者負担の原
則」に基づき、製品寿命が尽きたプラスチック包装材を回収・処理する責任を「生産
者・輸入者・ブランド所有者(PIBOs)」に課しました。
 PWM 2016とその後の改正法は、インド政府環境・森林・気候変動省の“Plastic
Waste Management Rules”(*4)のページで確認できます。
2.2 2022年改正:EPRガイドラインの導入
この改正により、具体的なリサイクル目標値と「EPR証書(EPR Certificates)」(
リサイクルクレジット)の取引制度が正式に導入されました。これにより、自社で物
理的な回収網を持たない企業でも、認定リサイクル業者から証書を購入することで義
務を履行できる市場メカニズムが確立されました。
2.3 PWM改正規則 2024 / 2025:デジタル表示の緩和と義務拡大
(i)表示義務の緩和(2025年7月施行): 従来、包装材への直接印字が求められていた
製品情報について、QRコードや製品情報パンフレットを通じたデジタル提供が可能に
なりました。これにより、企業のパッケージデザインの柔軟性が高まりました。
(ii)原料メーカーへの義務: 包装材メーカーだけでなく、プラスチック原料(樹脂)
の製造業者に対しても、CPCBポータルへの登録と、販売時のインボイスへの登録番号
記載が義務化されました。
2.4 2026年1月の決定的な厳格化通知
2026年1月19日の通知により、これまで認められていた「制度の抜け穴」が完全に塞
がれました。
(i)「カテゴリー間流用」の禁止: 以前は、特定のカテゴリーで余剰となったリサイ
クル実績を、不足している他カテゴリーの補填に充てることができましたが、現在は
「同一カテゴリーの証書」でなければ義務を果たせないよう制限されています。
(ii)「最終処分(EOL)証書」の廃止: これまでは「埋め立て」等の最終処分実績で
もリサイクル義務の一部を代替できましたが、2026年からは「実際にリサイクルされ
たこと」を示す証書のみが有効となりました。

§3 プラスチック包装材のEPR制度:カテゴリー分類と数値目標
インドのEPR制度への対応は、4つのカテゴリー分類と、年々引き上げられる数値目標
の把握は不可欠です。
3.1 包装材の4つのカテゴリー
(i)Category I(硬質 / Rigid): プラスチックボトル、容器、トレイ、ジャーな
ど。最もリサイクルが容易であり、高い数値目標が設定されています。
(ii)Category II(軟質 / Flexible): 単層・多層のシート、袋、サシェ、ポー
チ、シュリンクラップなど。
(iii)Category III(多層 / Multilayered): プラスチックと少なくとも一層の他素
材(アルミニウム、紙など)を含む複合材。リサイクルが最も困難なカテゴリーで
す。
(iv)Category IV(生分解性 / Compostable): 堆肥化可能なプラスチック。
3.2 2026-27年度の数値目標
2026年度(2026年4月?2027年3月)には、回収・リサイクル目標だけでなく、製品に
占める「再生材含有率(Recycled Content)」の義務も本格化します。
(i)Category I (硬質)
-リサイクル義務(市場投入量比):70%
-再生材含有率義務(製品重量比):40%
-再利用(Reuse)義務:15%(飲料水容器は75%)
(ii)Category II (軟質):
-リサイクル義務(市場投入量比):70%
-再生材含有率義務(製品重量比):20%
-再利用(Reuse)義務:設定なし
(iii)Category III (多層):
-リサイクル義務(市場投入量比):70%
-再生材含有率義務(製品重量比):10%
-再利用(Reuse)義務:設定なし
(iv)Category IV (生分解性):
-リサイクル義務(市場投入量比):100%
-再生材含有率義務(製品重量比):設定なし
-再利用(Reuse)義務:設定なし
3.3 リサイクルクレジットの取引
自社で物理的に廃棄物を回収できない企業(Producers, Importers and Brand owners PIBOs)は、以下のフローでコンプライアンスを維持します。
(i)リサイクル業者の登録: 政府に認定されたリサイクル業者が、処理能力と実績を
ポータルに登録します。
(ii)証書の発行: 業者が実際にリサイクルを行った実績に基づき、CPCBがポータル上
で電子的な「リサイクルクレジット」を発行します。
(iii)証書の購入: PIBOsは、リサイクル業者から不足分に相当するカテゴリーの証書
を市場価格で購入し、ポータル上で「義務の相殺」手続きを行います。

§4 2026年に求められる対応:対象拡大と監査の本格化
2026年は、インドにおけるEPR制度がプラスチックの枠を超え、あらゆる素材と業界
を巻き込む「グレート・リセット」の年となります。
4.1 対象品目の劇的な拡大(2026年4月1日?)
インドはBRICS諸国の中でも特に急進的な「対象拡大」に踏み切ります。
(i)新カテゴリーの追加: プラスチック、電子廃棄物(E-waste)、電池、潤滑油に加
え、2026年4月からは「非鉄金属(アルミニウム、銅等)」「紙」「ガラス」「家庭
用包装材」が新たにEPRの対象に加わります。
(ii)高精細な目標値: 例えば、EV用バッテリー等の回収率は2026-27年度に**90%**と
いう驚異的な目標が設定されており、自動車部品や家電メーカー、梱包材を扱う全て
の企業にCPCBへの登録が求められます。
4.2 監査と偽造防止の強化
2026年より、EPRポータル上での報告内容に対し、ブロックチェーン技術を用いたト
レーサビリティの確保が本格化しています。
(i)第三者監査の義務化: 大規模なPIBOsに対しては、ポータルへの報告内容が実態と
乖離していないか、政府認定の監査機関による検証報告書の提出が求められます。
(ii)原料供給元との照合: 原料メーカーの販売実績(GSTデータ)と、PIBOsの報告
データが自動照合され、不一致がある場合は「即時の環境補償金請求」の対象となり
ます。
4.3 企業対応
インドで事業を展開、あるいは輸入を行う企業の主要対応事項は次になります。
(i)カテゴリー別在庫管理の徹底: 2026年1月からの「カテゴリー間流用禁止」を受
け、自社が市場に投入しているプラスチックを4つのカテゴリーに正確に分類し、そ
れぞれの目標達成率を月次で管理する体制を構築してください。
(ii)再生材含有率への対応: 硬質プラスチックにおいて「40%」という高い再生材含
有率を達成するためには、設計変更(Design for Recycling)が不可欠です。品質を
維持しつつ、インド国内で流通する再生樹脂の調達ルートを確保してください。
(iii)非鉄金属・紙・ガラスへの登録準備: 2026年4月からの対象拡大に備え、これま
でプラスチック以外でEPRの対象外だった包装材や製品コンポーネントについて
も、CPCBへの登録準備を進める必要があります。
(iv)「環境補償金」のリスク引当: 目標未達成時の補償金は「罰金」として損金算入
できないリスクもあります。法務・財務部門と連携し、コンプライアンス未達時の財
務的インパクトを評価しておくことが推奨されます。

インドのEPR制度は、世界で最もデジタル化され、かつ「逃げ道」のないシステムへ
と完成されつつあります。

III.インドネシア
§1 環境政策の特徴:OECD加盟とBRICS+の二正面外交
インドネシアは「OECD(経済協力開発機構)への加盟」という先進国クラブへの入り
口を目指すと同時に、「BRICS+」という新興国連合に加盟をしています。この一見対
照的な外交方針が、環境政策に「ハイブリッドな進化」をもたらしています。
1.1 OECD加盟目標による「制度の厳格化と標準化」
OECD 加盟は、インドネシアにとって「信頼される投資先」であることを国際的に承
認されることを意味します。加盟プロセスには厳格な「環境パフォーマンス審査」が
含まれており、この審査が国内の環境法規制を、従来の「努力目標」から「国際標準
としての義務」へと引き上げる強力な外圧(アンカー)として機能しています。
(i)EPR制度の高度化: OECDはEPRの先駆的な提唱機関です。インドネシアは加盟に向
け、リサイクル率の算定基準、廃棄物データの透明性、および報告プロセスを「
OECD水準」へと引き上げることを求められています。
(ii)汚染者負担原則(Polluter Pays Principle)の徹底: 石炭火力への依存脱却
や、プラスチック包装材への課税、企業への廃棄物処理費用の内部化といった政策が
加速しています。
(iii)規制の可視化: 「デジタル・アクセション・ポータル」などの導入により、環
境規制の進捗状況を外部からモニタリング可能にすることで、グローバル企業が予見
可能性を持って投資できる環境を整備しています。
1.2 BRICS+加盟による「現実的な実行支援と市場拡大」
一方で、BRICS+への関与は、環境政策を「理想」だけで終わらせないための、現実的
なリソース確保と「サウス・サウス協力(南南協力)」の場として機能していま
す。
(i)新開発銀行(NDB)による資金調達: OECD基準を満たす高度な廃棄物処理施設やリ
サイクルインフラを建設するため、欧米主導の世銀だけでなく、BRICS系のNDBからも
資金を調達できるマルチな体制を整えています。
(ii)技術共有と連携: 中国やブラジルといった、大規模かつ急速な都市化に伴う廃棄
物問題を抱える新興国間で、実用的なリサイクル技術やEPR運用のノウハウを共有し
ています。
(iii)グローバル・サウスの代弁: 「先進国基準の一律適用は途上国の発展を阻害す
る」という立場をBRICS+内で堅持しつつ、自国にはOECD基準を段階的に導入して外資
を呼び込むという、極めてしたたかな政策を展開しています。
1.3 企業への影響:混沌と標準の混在
この二正面外交により、インドネシアの規制環境は「基準は先進国並みに厳しくなる
が、その実行手段(インフラや回収網)は新興国らしい柔軟かつ未整備なプロセスが
混在する」という特有の状況を生んでいます。

§2 EPR制度に関連する基本的な法律P.75/2019の構造
インドネシアにおけるEPR制度は、2019年にそれまでの「ゴミ処理は行政の責任」と
いうパラダイムを「製品を作ったメーカーが、廃棄段階まで責任を持つ」という方向
へ根本から転換させました。
2.1 制度の全体像
代表法令は、 環境林業大臣規則 2019年第P.75号(
P.75/MENLHK/SETJEN/KUM.1/10/2019)(*5)です。
(i)基本方針: 2029年までに、生産者(製造・小売・飲食)が排出する廃棄物を
2019年比で30%削減する。
(ii)管理プラットフォーム: SIPSN(National Waste Management Information
System)を通じて、全ての報告と管理が行われます。
2.2 対象となる3つのセクター
規制の対象は、以下の「生産者(Produsen)」として定義される3つの業種です。
(i)製造業(Manufacturers): パッケージ製品を市場に投入する最大の主体食品、飲
料、日用品(パーソナルケア)、で、化粧品のメーカー。
(ii)小売業(Retailers): ショッピングセンター、デパート、スーパーマーケッ
ト。レジ袋や店舗独自の包装が対象。
(iii)飲食業(Food & Beverage Services): レストラン、カフェ、ホテル、ケータ
リング。使い捨て食器や調理過程の包装が対象。
2.3 10カ年ロードマップ
対象企業には、単なるリサイクル協力ではなく、2020年から2029年までの10年間を対
象とした「廃棄物削減ロードマップ」の作成と提出が義務付けられています。これに
は以下の内容が含まれます。
(i)現状の廃棄物発生量の詳細な推計(ベースラインの設定)。
(ii)年度ごとの削減数値目標(最終的に30%削減)。
(iii)具体的な削減手段(素材の変更、回収システムの構築、消費者啓発など)。

§3 プラスチック包装材のEPR制度
プラスチック包装材は、インドネシアの環境政策において最も厳しい監視下にありま
す。島嶼国である特性上、海洋プラスチック汚染に対する危機感が極めて強く、単な
る「リサイクル」を超えた「ソース・リダクション(発生抑制)」が強力に求められ
ています。
3.1 3Rの実践と優先順位
規則P.75/2019は、以下の順序で企業が対策を講じることを要求しています。
(i)リデュース(Reduce / 発生抑制):
-製品パッケージの軽量化(プラスチック使用量の物理的な削減)。
-生分解性プラスチックへの切り替え(ただし、認定されたものに限る)。
-特定の使い捨て製品(ストロー、レジ袋、カトラリー)の使用禁止。
(ii)リユース(Reuse / 再利用):
-消費者が容器を持参する「リフィル(詰め替え)ステーション」の設置。
-返却可能な通い容器(デポジット制など)の導入。
(iii)リサイクル(Recycle / 再資源化):
-製品使用後のパッケージを回収する仕組みの構築。
-リサイクル不可能な素材(PVC、ポリスチレン等)から、リサイクル容易な素材(単
一素材、PET等)への転換。
3.2 独自の回収モデル「ゴミ銀行(Waste Bank)」との連携
インドネシアは広大な国土と多くの島々から成るため、全国一律の行政回収網の構築
が困難です。そこで、地域コミュニティが自主的に運営する「ゴミ銀行(Bank
Sampah)」が重要な役割を果たしています。
企業は、自社のEPR義務を果たすため、これら数千のゴミ銀行と提携し、回収拠点と
して活用することが期待されています。これは、経済的価値をゴミに付与し、住民に
還元するインドネシア独自の「「草の根EPRモデル」といえます。

3.3 2029年末までの段階的廃止(フェーズアウト)
2029年末までに、ポリエチレン(PE)製のレジ袋やプラスチック製ストローおよびカ
トラリーなどの特定プラスチック製品は市場から完全に姿を消さなければなりませ
ん。

§4 2026年に求められる対応
2026年は、2029年の目標達成に向けた「中間地点」を過ぎた決定的な年です。
政府の監視の目はロードマップ進捗報告と「行政指導」の強化など、「計画の有無」
から「実行実績の検証」へと移っています。
インドネシアは地方分権が強く、ジャカルタ首都圏などでは「2026年までの廃棄物
100%管理目標」を掲げ、国よりも先行して厳しい規制を敷いています。
ジャカルタ周辺で活動する企業は、中央政府のP.75/2019だけでなく、州知事令等に
よる独自のプラスチック規制やリサイクル・ハブの構築要請にも同時に対応しなけれ
ばなりません。

インドネシアのEPR制度は、OECD加盟という「理想」と、BRICS+的な「現実的手
段」の間で、急速にその実効性を高めています。2026年は、もはや準備期間ではな
く、提出したロードマップがどれだけ進捗しているか、2029年の完全廃止品目にどう
対処するか、具体的な数字と行動が問われる年です。

当説明内容は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見
解等を代弁するものではありません。法規制の解釈は必ず原文を参照してください。
本稿は、2026年2月末の情報でまとめています。

引用
*1:PNRS
https://www.planalto.gov.br/ccivil_03/_ato2007-2010/2010/lei/l12305.htm
*2:連邦令 No. 11.413/2023
https://www.planalto.gov.br/ccivil_03/_ato2023-2026/2023/Decreto/D11413.htm
*3:No. 12.688/2025
https://www.planalto.gov.br/ccivil_03/_ato2023-2026/2025/decreto/d12688.htm
*4:Plastic Waste Management Rules
https://eprplastic.cpcb.gov.in/#/plastic/home
*5:P.75/2019
https://jdih.kemenkoinfra.go.id/en/peraturan-menteri-lingkungan-hidup-dan-kehutanan-no-p75menlhksetjenkum1102019-tahun-2019


(一社)東京環境経営研究所 松浦 徹也
(2026年5月)

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