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EU 新玩具安全規則案にみる新たな施策の流れと企業対応

【1.EU 新玩具安全規則案にみる新たな施策の流れと企業対応】
EUで新玩具安全規則案(*1)が最終段階になっており、2025年11月25日のEU議会の第
2読会で理事会提案を修正なしで採択(*2)しました。
 今後は事務的な手続きのみが残っています。
i.署名 (Signature): 欧州議会議長と理事会議長が法案に署名します。
ii.官報掲載 (Publication): 数週間?数ヶ月以内に「欧州連合官報 (Official
Journal)」に掲載されます。
iii.発効 (Entry into force): 掲載から20日後に発効します。
iv.適用開始 (Application): 事業者が対応するための移行期間(通常30ヶ月、化学
物質など一部規定は別期間の可能性あり)を経て、完全に義務化されます。

新玩具安全規則は、指令から規則に代わったこと以上に、EUの2050年環境目標の政策
を具体化している部分があり注目されます。EU政策は、“Backcasting”的な展開を
しますので、2050年の目標は理解できるものの今年や来年の企業対応は戸惑いがちで
す。
EU委員会も2050年に向けての道筋を先行モデルとして、電池規則、エコデザイン規
則、包装材規則で示してきました。新玩具安全規則はDPP(Digital Product
Passport:デジタル製品パスポート)や懸念物質などについて、これまでより一歩踏
み込んだ規制を具体化しています。

1.玩具安全指令から玩具安全規則へ
前文第3文節で、TSDについて次の評価をして改定をするとしています。
EU委員会による指令2009/48/ECの評価(Evaluation)は、本指令が児童の保護に関連
性を有し、かつ概ね実効性があることを結論付けた。
しかしながら、本指令の2009年の採択以降の実務上の適用において顕在化した多数の
欠陥(deficiencies)も特定された。
特に、当該評価は、玩具に含まれる有害化学物質に起因する潜在的リスクに関する一
定の不備(shortcomings)を特定した。
さらに、当該評価は、多数の不適合(non-compliant)かつ不安全な玩具が、依然と
して連合市場に流通していると結論付けた。
 さらに、前文第6文節で、GPSRとの関係について言及しています。
玩具は、一般製品安全規則(規則(EU) 2023/988)の適用対象でもある。当該規則
は、消費者製品に関する特定の分野別法令によって規制されない事項に関して補完的
な方法で適用される。
中略
(GPSRは玩具にも適用されるので)本規則は、遠隔販売およびオンライン販売、経済
主体による事故報告、情報提供および救済を受ける権利に関する特定の規定を含まな
い。
その代わりに、玩具に関する安全性の情報を提供する経済事業者(製造者。輸入
者、販売者など)に対し、規則(EU) 2023/988に定める手続きに従い、当局および消
費者に情報を提供することを義務付けている。
 TSRはGPSR以外にも他の規制法と調和して運用されます。

(1) 玩具安全規則(Toy Safety Regulation:TSR)の対象
これまで、玩具に関わる企業以外にも、消費者向製品の生産者が「安全製品」の基準
として玩具安全指令の基準を準用している例を見受けています。玩具安全規則は、玩
具関係企業以外の一般消費者用途の製品に関係する企業が知っておくべき基準ともい
えます。
(2) 一般製品安全規則
消費者向製品を対象として一般製品安全規則((EU)2023/988 General Product Safety Regulation: GPSR)(*3)が2023年5月23日に一般製品安全指令に置き換える
告示がされました。
 GPSRは経済事業者にリスクベースでの新たな対応が幅広く要求しています。
(i)一般安全要件(第4条)に基づいて、経済事業者は、安全な製品のみを市場に出す
義務があります。高いレベルの安全性は、主として、製品の意図された予見可能な使
用及び使用条件を考慮した上で、製品の設計及び特徴を通じて達成し、残りのリスク
は、警告や指示のような特定の安全対策によって軽減しなくてはなりません。
 安易な警告表示は許されないことになります。
(ii)製品の安全性は、その製品のすべての関連する側面、特に物理的、機械的及び化
学的特性及びその表示等の特性、並びに当該製品を使用する可能性のある特定のカテ
ゴリーの消費者、特に子供、高齢者及び障害者に対して製品が示す特定のニーズ及び
リスクを考慮して評価しなくてはなりません。
これらのリスクには、消費者の健康と安全に対するリスクをもたらす環境リスクも含
まれます。
GPSR 第4条(一般安全要件)に基づいて、経済事業者は、「安全な製品」のみを市場
に出す義務があります。高いレベルの安全性は、主として、製品の意図された予見可
能な使用及び使用条件を考慮した上で、製品の設計及び特徴を通じて達成し、残りの
リスクは、警告や指示のような特定の安全対策によって軽減しなくてはなりませ
ん。
 この安全な製品基準は、GPSRには特定されていなく、玩具安全指令を準用していま
した。

2.玩具安全規則(TSR)の主要事項
(1)前文に示されている政策
階層構造的には次になります。
【最上位(目的)】:EUグリーンディール / 持続可能性のための化学物質戦略
持続可能性のための化学物質戦略 (Chemicals Strategy for Sustainability)の具体
的な実行手段
戦略が掲げる「有害物質のない環境(Toxic-free environment)」や「包括的な予防
的アプローチ」という目標を達成するために、玩具指令を改正し、発がん性物質や内
分泌かく乱物質(EDCs)などの規制を強化するという流れです。
上位概念は予防原則 (Precautionary Principle)で、 本規則運用の指導原理であ
り、科学的に不確実な場合でも、子供の安全を最優先して規制措置をとるべきという
基本姿勢を規定しています
【基礎(土台)】:NLF (決定 768/2008、規則 765/2008)
決定768/2008/EC (共通枠組み)で、企業対応の基本となります。EUの製品法の整合性
を保つため、定義や義務、適合性評価手続きの標準モデルを提供しており、本規則案
もこれに準拠して起草されています。
規則 (EC) No 765/2008 (認定と市場監視)は、玩具の安全性を検査する機関(適合性
評価機関)が正しく機能するための認定ルールなどを定めています。
【中心(TS R)】:個別の物理・化学的要件を規定
【横のつながり(機能に応じて追加適用)】:AI法 / サイバーレジリエンス法 /
食品接触材料規則
AI法 (Artificial Intelligence Act): AI搭載玩具は「ハイリスクAI」とみなされ
る可能性があり、玩具規則の安全要件に加え、AI法に基づくリスク管理やデータガバ
ナンス要件が上乗せされます。
サイバーレジリエンス法 (Cyber Resilience Act):インターネット接続機能(IoT)
を持つ玩具に対し、サイバーセキュリティ(ハッキング防止など)の観点から規制が
上乗せされます。
無線機器指令 (Radio Equipment Directive):ラジコンや通信玩具におけるプライバ
シー保護や電波利用に関して適用されます。
食品接触材料規則 (Regulation (EC) 1935/2004): お菓子のおまけや、口に入れる
ことを前提とした玩具の「包装」などに対し、食品安全の観点から適用されます。
【基礎(隙間を埋める)】:一般製品安全規則 (GPSR) / 市場監視規則
 
(2)TSRの究極の目標
 TSRの目標は、持続可能性のための化学物質戦略(CSS)の以下の目標の具体的実施計
画になります。
CSSの究極の目標は、「無毒な環境 (Toxic-free environment)」の実現です。化学物
質による恩恵を享受しつつ、人や環境への悪影響を最小限に抑えるためのパラダイム
シフトを目指しています。
主な柱は以下の通りです。
i.有害化学物質に対する一般的アプローチ (Generic Approach to Risk Management
- GRA) の拡大
これが最も玩具規制に影響する部分です。
・これまで、「リスク評価を行い、許容できないリスクが証明された場合に規制す
る。」していますが、CSSでは「発がん性、変異原性、生殖毒性(CMR)に加え、内分
泌かく乱物質(EDC)、残留性・生物蓄積性・毒性物質(PBT)などの「最も有害な化
学物質」については、詳細なリスク評価なしに、消費者製品(玩具、食品接触材料な
ど)への使用を原則禁止する」ようになります。
例外は、その使用が「社会にとって不可欠(Essential Use)」であると証明された
場合のみ認められます。
ii.「安全かつ持続可能な設計 (Safe and Sustainable by Design - SSbD)」の推進
有害物質を後から取り除くのではなく、製品の設計段階から安全で持続可能な代替物
質を使用することを促進します。
iii.懸念される特定の化学物質群への対策強化
内分泌かく乱物質 (EDCs): ホルモン作用を阻害する物質の規制強化やPFASの不可欠
な用途を除いて全廃に向けた動きがあります。
iv.複合影響 (Mixture Effect / Cocktail Effect) への対応
単一の化学物質ごとの評価だけでなく、複数の化学物質に同時にばく露した場合の複
合的な影響(カクテル効果/複合汚染)を考慮したリスク評価・管理係数の導入をし
ます。
 TSRは、これをうけて、以下の規制を具体化しています。
i.一般的アプローチ (GRA) の拡大
従来のCMR物質(発がん性等)の禁止に加え、内分泌かく乱物質 (EDC)、呼吸器感作
性物質、特定臓器毒性物質なども、原則として玩具への使用が禁止されました。
ii.最も有害な物質の排除
子供などの脆弱者を守るために上記の禁止物質について、「意図的な含有」か「微量
混入」かを問わず厳しい制限値が適用されます。
iii.複合影響 (カクテル効果・複合汚染) への配慮
物質ごとの個別の制限値だけでなく、類似の作用を持つ物質の合計量での規制や、一
般的安全性要件の中に複合リスクの概念が取り込まれています。
iv.デジタル製品パスポート (DPP)
CSSが掲げるサプライチェーンの透明化のため、玩具に含まれる化学物質情報の開示
手段として、デジタル製品パスポートの導入が義務付けられます。

(3)TSRの構成とTSD(指令(EC)2009/48)からの変更点
i.TSRの構成
 TSRは新しい法的枠組み(New Legislative Framework:NLF)に基づき、全9章(
Chapter)と付属書(Annex)で構成されています。
注:NLFは、EU域内の様々な製品に対して、市場監視を強化し、適合性評価の品質を
向上せることを目的として制定される一連の法規制です。
第1章 一般規定
適用範囲(14歳未満など)、定義、適用除外品目
第2章 事業者の義務
製造者、輸入者、販売者の義務。デジタル製品パスポート (DPP) の作成義務がここ
に含まれます。
第3章 玩具の適合性
必須安全性要件(一般的・特定的)、安全警告、CEマーキングのルール
第4章 適合性評価
適合性評価機関(Notified Bodies)の認定や通知の手続き
第5章 市場監視
危険な玩具の取り締まり、Safety Gate(旧RAPEX)との連携
第6章 委任権限
EU委員会が技術的進歩に合わせて付属書(禁止物質リストなど)を修正する権限
第7-9章 最終規定
罰則、経過措置、発効日など。
重要な付属書 (Annexes)
Annex I: 適用除外製品リスト(コレクター用品、スポーツ用品など)。
Annex II: 特定的安全性要件(物理的、機械的、可燃性、電気的、化学的要件)や化
学物質規制
Annex VI: デジタル製品パスポート (DPP) に含めるべき情報項目
Annex VIII:TSDとTSRの相関表 移行期間中のTSDとTSRの適用
 
ii.TSDからの主な変更点
「指令 (Directive)」から「規則 (Regulation)」に変わることで、加盟国ごとの法
制化を待たずにEU全域で一斉に直用されるようになります。
(i)化学物質規制の大幅強化 (Annex II Part III)
・一般的禁止の拡大: 発がん性物質(CMR)に加え、内分泌かく乱物質(EDC)、呼吸器感
作性物質、特定臓器毒性物質も原則使用禁止となります(CSS戦略の反映)。
・例外の厳格化: 従来認められていた例外(子供が接触しない場合など)の条件が厳
しくなります。
・ニトロソアミン: 許容限度値が大幅に引き下げられます。
 注:一部のニトロソアミン類には発がん性があることが知られています。
(ii)デジタル製品パスポート (DPP) の導入 (Chapter II)
・従来の「EU適合宣言書 (DoC)」は紙での保管が主でしたが、TSRは 製品ごとにQR
コード等を付与し、デジタル上で適合性情報、化学物質情報、リサイクル情報などに
アクセスできる「パスポート」の作成が義務付けられます。
これがなければ通関できません。
(iii) メンタルヘルス・認知的安全性の追加 (第 5条, Annex II)
・従来の「物理的健康」だけでなく、「心理的・精神的健康 (Psychological and mental health)」および子供の認知的発達に対するリスクも、一般的安全要件に含ま
れることが明記されました。
・インターネット接続玩具やAI玩具が想定されています。
(iv)警告表示の明確化 (第 11条)
・「Warning(警告)」という言葉の後に、明確に危険の内容を記載する必要があり
ます。オンライン販売においても、購入前に消費者が警告を視認できるようにする義
務が強化されています。

iii.DPPの要点
DPPとは、製品のライフサイクル全体(製造~使用~リサイクル)に関する情報をデ
ジタル化し、製品上の識別子(QRコード等)を通じてアクセス可能にするシステムで
す。
(i)目的:コンプライアンスの効率化と透明性
(ii)紙からの脱却: 従来、紙で保管・提示していた「EU適合宣言書(DoC)」をデジ
タル化し、パスポート内に格納します。
(iii)市場監視の強化: 税関や市場監視当局が、QRコードをスキャンするだけで瞬時
に適合性をチェックできるようにし、危険な玩具の水際対策を強化します。
(iv)仕組み:データキャリアと分散型システム
(v)データキャリア: 製品またはその包装に、固有の識別子(UID)を持つデータ
キャリア(QRコード、NFCタグなど)を付与します。
(vi)アクセス権限の階層化: アクセスする人によって見られる情報が異なります。
(vii)消費者: 安全上の注意、説明書、修理・リサイクル情報
(viii)監視当局: 詳細な技術文書、試験報告書、化学物質の完全な組成情報
(ix)リサイクラー: 解体手順、材質情報
(x)玩具規則における必須情報 (Annex VI)
玩具のDPPには、少なくとも以下の情報が含まれる予定です。
・製品を一意に識別するコード(GTIN/EANなど)
・製造者・輸入者の名称と住所
・EU適合宣言書 (DoC)
・懸念物質の含有情報
・安全に関する警告・説明書
・修理やリサイクルに関する情報(将来的に)

DPPが通関要件となり、強制要求になります。

iv.移行期間
適用開始 (移行期間)は、基本的には発効から30ヶ月後(約2年半)に適用開始です
が、DPPに関しては、さらに準備期間が必要なため、適用が遅れる可能性がありま
す。

3.論点
DPPは概念としては合意されていますが、「技術的にどう実装するか」「ビジネスへ
の影響をどう抑えるか」という点で、多くの議論が残されています。
i.技術的標準と相互運用性 (Interoperability)
(i)論点: どのITシステムを使うか
(ii)現状: EUは中央集権的な巨大データベースを作るのではなく、企業が自社(また
はサードパーティ)のサーバーにデータを持ち、それをリンクさせる分散型システム
を想定しています。
(iii)課題: 中小企業が対応できる安価なソリューションや、異なる業界(電池、繊
維、玩具)で共通して使えるデータフォーマットの標準化が急務です。
ii.データの「粒度 (Granularity)」
(i)論点: どの単位でパスポートを作るのか?
(ii)選択肢:
・モデル単位: 「製品型番XYZ」ごとに1つのパスポート(同じ種類の玩具は同じQR
コード)。
・バッチ(ロット)単位: 製造ロットごとに分ける。
・アイテム(シリアル)単位: 個別の商品1つ1つに固有ID(電池規則ではこれが求め
られる)。
玩具は安価で大量生産されるため、現時点では「モデル単位」または「バッチ単位」
が現実的とされていますが、リコール精度の観点からどこまで細分化を求められるか
が議論になります。
iii.知的財産権 (IP) と機密情報の保護
(i)論点: 化学物質情報の開示範囲。
(ii)課題: サプライチェーンの透明性を高めるため、構成物質の情報を登録する必要
がありますが、詳細な配合(レシピ)は企業の競争力の源泉(営業秘密)です。「当
局には開示するが、競合他社や一般には隠す」というアクセス制御のセキュリティ強
度が極めて重要になります。
iv.玩具特有の物理的課題
(i)論点: QRコードの耐久性と場所
(ii)課題: 玩具は子供が手荒に扱ったり、洗ったり、噛んだりします。
・製品本体に直接印字するのか、パッケージで良いのか?
・小さな玩具(カプセルトイなど)の場合、物理的にコードを印刷するスペースがな
い場合はどうするか?
・遊んでいるうちにQRコードが摩耗して読み取れなくなった場合の責任は?
v.ストと中小企業への負担
(i)論点: システム導入・維持コスト。
(ii)課題: 玩具業界は中小企業(SME)が非常に多い業界です。DPPの作成、データホ
スティング、長期間(製品寿命+10年など)のデータ維持にはコストがかかりま
す。これらが製品価格に転嫁された場合の影響や、SMEへの支援策が議論されていま
す。
vi.まとめ:準備すべきこと
日本企業を含む玩具メーカーにとって、DPP対応は単なる「バーコードの貼り替
え」ではありません。
(i)BOM(部品表)の精緻化: 自社製品のすべての部品・材質・化学物質情報をデジタ
ルデータとして整理し直す必要があります。
(ii)サプライヤーとのデータ連携: 部品メーカーからデジタルデータで情報を吸い上
げる仕組みが必要です。
(iii)IT部門との連携: 自社の製品管理システムと、EUのDPPシステムをどう接続する
か検討を始める必要があります。

4.企業対応の考え方
(1)サプライチェーンからの情報収集
DPP(デジタル製品パスポート)の導入において、セットメーカーがサプライチ
ェーンの深さ(多段構造)」に関わらずEU当局に対して「製品の完全な適合責任」を
負う唯一の存在となります。
セットメーカーは最終製品に含まれるすべての化学物質や安全性について把握し、保
証する義務があります。ただし、すべてのサプライヤーの社名や詳細情報を「DPPに
表示(公開)」する必要はありません。
i.どこまで遡る必要があるか?(深さの原則)
(i)トレーサビリティ情報は決定 768/2008/EC)に基づき直接のサプライヤー(Tier
1)のみで足ります。Tier 2(孫請け)以下の社名をセットメーカーが直接把握する
法的義務までは通常課されません。
(ii)「フル・マテリアル・デクラレーション(全物質宣言)」に向けた管理
宣言範囲はTSRがCMR物質(発がん性等)やEDC(内分泌かく乱物質)が「意図的添加
か否かを問わず」規制されますので、サプライチェーンの最上流部(原材料メー
カー)まで遡る必要があります。
例えば、Tier 3の塗料メーカーや、Tier 4の樹脂ペレットメーカーが使用した添加剤
が規制対象であれば、セットメーカーはそれを検知し、排除(またはDPPに記載)し
なければなりません。

したがって、直接のサプライヤー(Tier 1)に対して、「Tier 1が責任を持ってその
上流(Tier 2以降)から情報を回収し、セットメーカーに提出すること」を義務付け
る必要があります。

(2)DPPの世界標準化
DPPが、単なる「EUのローカルルール」にとどまらず、事実上の世界標準(デファク
トスタンダード)になりつつある動きや兆候は、すでに多方面で明確に現れていま
す。
これを後押ししているのは、いわゆる「ブリュッセル効果(Brussels Effect)」(
EUが規制を作ると、巨大なEU市場を無視できないグローバル企業がそれに合わせ、結
果として世界標準になる現象)です。

 EUも世界標準に向けての対応をしています。
国際標準化機関への「輸出」の動き
i.EUはDPPの技術仕様を自分たちだけで囲い込まず、既存の国際標準化機関に持ち込
み、「EUルールをISO標準」にしようと動いています。
DPPの基礎となる識別子やデータ構造について、国際標準化機構(ISO)や国際電気標
準会議(IEC)の既存規格(ISO/IEC 15459など)をベースに採用しています。これに
より、米国やアジアの企業も「ISO準拠」という形で受け入れやすくなっていま
す。
ii.世界中のJANコード/バーコードを管理する国際機関「GS1」が、DPPを全力で推進
しています。GS1が動くということは、世界中の小売・物流業界がそのフォーマット(
GS1 Digital Link)に移行することを意味します。

(3) DPPのEN規格(案)の状況
DPPの技術的な詳細を定める「規格(Standard)」の策定は現CEN(EU標準化委員会)と
CENELEC(EU電気標準化委員会)の合同委員会が中心となってドラフト整合規格(
Harmonized Standards)(prEN)の作成・審議を進めています。
整合規格は、法的拘束力のある規則(ESPRや玩具規則)を技術的に実装するための「
公式なマニュアル」となるものです。

現在開発中の規格(prENシリーズ)は、主に以下の3つのレイヤーで構成されていま
す。これらが組み合わさって一つのDPPシステムが動きます。
i.一意の識別子(Unique Identifiers: UID)に関する規格
製品を特定するためのIDのルールです。
ii.データキャリア(Data Carriers)に関する規格
IDを物理的に製品に表示する方法のルールです。
iii.ITアーキテクチャと相互運用性(Interoperability)に関する規格
最も複雑で重要な、データ交換のルールです。
 
 DPPで懸念されるのが、様々な当局や消費者に提供すべき情報と営業秘密の保持で
す。
このため、提供情報は区別しなくてはなりません。
i.消費者がスキャン:スマホの設定言語(日本語)を検知し、日本語の「購入ペー
ジ」などへ飛ばす。
ii.EU税関がスキャン:
税関アプリでスキャンしたことを検知し、自動的に「DPPの適合証明書(XMLデータ
)」へアクセスさせる。
iii.リサイクル業者がスキャン:
「解体マニュアル」や「材質データ」へ飛ばす。
iv.レジの店員がスキャン:
JANコードとして会計処理をする

このため、従来のバーコード (JAN/EAN)のような、数字の羅列ではなく、QRコードな
どによるGS1 Digital Link方式が採用されます。この方式の最大の特徴は、URLの中
に「商品ID(GTIN)」や「ロット番号」を埋め込む順番(文法)が決まっていること
です
これにより、情報は生産者が自社で管理しながらも、アクセス者を識別して、提供情
報を区別できます。
 具体的には、様々な多くの方法や技術的な課題があります。
prENの基本はCIRPASSのプロジェクトレポート(*4)とされていますので、技術的内
容を含めて確認できます。

標準化プロセスは非常にタイトなスケジュールで進んでいます。
(i)2024年?2025年前半:ドラフト版(prEN)の完成と、パブリックコンサルテー
ション
各国の標準化機関による投票。
(ii)2025年12月:
規格の最終化と、欧州委員会への提出期限
(iii)2026年?:
EU州官報(OJEU)への掲載。

(4)準備すべきこと
準備すべきこと
玩具メーカーだけでなく、日本企業はDPP対応を単なる「バーコードの貼り替え」で
すむことではなく、DPPをEU戦略とみなして準備をすることが肝要と思います。。
(1)BOM(部品表)の精緻化
自社製品のすべての部品・材質・化学物質情報をデジタルデータとして整理し直す必
要があります。
(2)サプライヤーとのデータ連携
部品メーカーからデジタルデータで情報を吸い上げる仕組みが必要です。
(3)IT部門との連携
自社の製品管理システムと、EUのDPPシステムをどう接続するか検討を始める必要が
あります。
(4)日本の情報伝達の方法の状況把握
chemSHERPAの改定、CMP構想やウラノスエコシステムの状況を把握する必要がありま
す。

*1:新玩具安全規則案
この原稿は、EU議会第一読会の修正意見を反映したP9_TA(2024)0144を基に、筆者
の知見により、まとめたものです。
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:52024AP0144
EU議会第二読会の結果を反映した文書はLegislative Observatory-European
Parliament-のWebページで今後告示されると思います。解釈は最新版をご確認くださ
い。
https://oeil.europarl.europa.eu/oeil/en/procedure-file?reference=2023/0290(COD)
*2:2025年11月25日のEU議会の採択
https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/PV-10-2025-11-25-VOT_EN.html?item=2
*3:GPSR
 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?toc=OJ%3AL%3A2023%3A135%3ATOC&uri=uriserv%3AOJ.L_.2023.135.01.0001.01.ENG

*4:CIRPASSのプロジェクトレポート
https://cirpassproject.eu/wp-content/uploads/2024/07/CIRPASS-standardisation-gaps-and-roadmap-V1.2.pdf

(一社)東京環境経営研究所 松浦 徹也
(2026年1月)

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