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Prop65 short-formの要件の変更とは

【1.Prop65 short-formの要件の変更とは】
1.    プロポジション65(Prop65)とは
プロポジション65 (*1)は、カリフォルニア州法の1986年安全飲料水および有害物質施行法(Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986)であり、がん、先天性欠損症、またはその他の生殖障害を引き起こす化学物質への重大なばく露について、カリフォルニア州民に警告を提供することを企業に義務付けています。これらの化学物質は、カリフォルニア州民が購入する製品、家庭や職場、または環境中に放出される製品に含まれる可能性があり、情報の提供を義務付けることで、カリフォルニア州民はこれらの化学物質へのばく露について十分な情報を得たうえで意思決定することが可能となります。プロポジション65はカリフォルニア州環境保護庁環境健康有害性評価局(the Office of Environmental Health Hazard Assessment:OEHHA)(*2)が管轄しています。
プロポジション65における警告の規則は2016年に大幅に改定され、short-form警告が導入されましたが、2021年以降、short-form警告の表示方法や内容を巡って、さらなる規則の改定が検討されています。

2.    警告表示とshort-form警告
プロポジション65は、カリフォルニア州に対し、がん、先天性欠損症、その他の生殖毒性を引き起こす化学物質を収載したThe Proposition 65 List(以降リスト)(*3)を発行し、少なくとも年に 1 回そのリストを更新することを求めています。現在、リストには約1,000以上の物質が収載されており、発がん性物質の重大なリスクを生じないレベル(no significant risk level:NSRL)や生殖毒性物質の最大許容量レベル(maximum allowable dose level:MADL)といった許容値レベル(セーフハーバーレベル)が指定されています。
リストに収載されている製品に含まれる化学物質によるばく露がセーフハーバーレベルを上回る場合、第6条(*4)による明確かつ合理的な警告を表示することを要求しています。
警告表示の内容については、カリフォルニア州規則§25603 (*5)に明記されています。黒色の太い輪郭を持つ黄色の正三角形に黒の感嘆符で構成されるシンボルマーク、「WARNING」という太文字と警告文で構成されます。警告文は、発がん性物質や生殖毒性物質、またはその両方の場合により内容が異なります。例えば、発がん性物質の警告文であれば、以下の通りになります。
“This product can expose you to chemicals including [name of one or more chemicals], which is [are] known to the State of California to cause cancer. For more information go to www.P65Warnings.ca.gov.”
いっぽう、警告表示ではshort-form警告も認められており、short-form警告は警告文の中に化学物質の名称を含める必要がありません。発がん性物質のshort-form警告における警告文は以下の通りです。
“Cancer -- www.P65Warnings.ca.gov.”
企業が通常の警告表示またはshort-form警告表示のどちらを選択するかについては、規定が特に存在せず、その選択は企業に委ねられています。

3.    short-form警告の規定改定の動き
2016年8月、OEHHAは、30年以上前に制定された「明確かつ合理的な警告規制」の大幅な変更を採択(*6)し、現行の警告表示の規定となりました。この規則制定の主な目的は、消費者がさらされるリストアップされた化学物質に関する具体的な情報を提供することであり、その手段のひとつとして、OEHHAにより新たに構築された警告のウェブサイトを消費者に紹介することでした。そのため、消費者をより簡易的にウェブサイトに誘導できる選択肢として、short-form警告が採用されました。
OEHHAは、short-form警告が小型製品や通常の警告を表示するスペースが十分でない製品にのみ使用されることを意図していましたが、実態として企業は通常の警告を表示する十分なスペースがある消費者製品についてもshort-form警告を使用しています。また、潜在的な訴訟から自社を守ることを目的として、本来、警告表示の必要がない(セーフハーバーレベルの化学物質のばく露が生じない)場合においても、多くの企業がshort-form警告を使用している事例が見受けられました。
このような背景から、2021年1月8日、OEHHAは、プロポジション65の主にshort-form警告の方法と内容を改定する提案通知を発表しました(*7)。この改正案では、short-form警告の使用条件を以下のように指定していました。
・ラベリングに利用できる製品の総表面積が5平方インチ以下である。
・パッケージの形状またはサイズが、通常の警告表示に対応できない。
・警告全体は、製品の他の消費者情報に使用される最大の文字サイズと同等か大きい文字サイズで印刷する必要があり、文字サイズは6ポイント以上にしなければならない。
また、short-form警告文には以下のように物質名が追加されました。
“Cancer Risk From Formaldehyde and Reproductive Risk From Toluene Exposure - www.P65Warnings.ca.gov.”
ただし、その後の意見募集によって、これらの内容が協議され、改定案は修正されています。2022年4月5日の最新の修正案報告(*8)では、製品の表面積とパッケージの形状に関する要件は、削除されています。要件削除の根拠として、製品の表面積については、12平方インチを超える様々な製品に通常の警告表示を使用することの実現可能性や、ラベルサイズの決定方法について疑問が提起されているとしています。また、パッケージの形状における要件削除の根拠としては、パッケージの形状やラベルが全文の警告の対応可否を判断する方法が具体的でないためであるとしています。
さらに、他の消費者情報文字サイズと同等か大きい文字で印刷する必要があるという要件についても削除されています。その根拠として、short-form警告が製品ラベルに占める割合が高くなると、他の重要な消費者情報が目立たなくなるためとしています。

4.    まとめ
2022年5月の時点で、割り当てられた期間内にプロセスを完了することができなかったとして、short-form警告の規制改定は実現しませんでした。これに対して、OEHHAは、規制提案に対する意見を踏まえた新たな規制案を提出し、short-form警告の規制策定プロセスを再開する予定であるとしています。
現時点はshort-form警告の規定の改定は実現していませんが、意見募集により規定改定内容のなかで、議論すべき点は明確になってきていると考えられます。


引用先
(*1)プロポジション65
https://oehha.ca.gov/proposition-65
(*2) the Office of Environmental Health Hazard Assessment:OEHHA
https://oehha.ca.gov/ 
(*3) The Proposition 65 List
https://oehha.ca.gov/proposition-65/proposition-65-list 
(*4) プロポジション65 条文一覧
https://oehha.ca.gov/proposition-65/law/proposition-65-law-and-regulations
(*5) カリフォルニア州規則§25603
https://govt.westlaw.com/calregs/Document/IBA6100A1512211EC828B000D3A7C4BC3?viewType=FullText&listSource=Search&originationContext=Search+Result&transitionType=SearchItem&contextData=(sc.Search)&navigationPath=Search%2fv1%2fresults%2fnavigation%2fi0ad62d340000018962591125817d1387%3fppcid%3d200bd4f286664d32afed959492c24028%26Nav%3dREGULATION_PUBLICVIEW%26fragmentIdentifier%3dIBA6100A1512211EC828B000D3A7C4BC3%26startIndex%3d1%26transitionType%3dSearchItem%26contextData%3d%2528sc.Default%2529%26originationContext%3dSearch%2520Result&list=REGULATION_PUBLICVIEW&rank=1&t_T2=25603&t_S1=CA+ADC+s 
(*6) 第6条、明確かつ合理的な警告に関する規制の改正(2016年)
https://oehha.ca.gov/media/downloads/crnr/art6fsor090116.pdf 
(*7) 第6条、明確かつ合理的な警告(short-form警告)修正案(2021年)意見募集
(修正理由文書・修正案等のリンクがあります)
https://oehha.ca.gov/proposition-65/crnr/notice-public-hearing-and-extension-public-comment-period-amendments-article-6
(*8) 意見募集の基づいた修正案(2022年4月5日)
https://oehha.ca.gov/media/downloads/crnr/notice2ndmod040522.pdf
(一社)東京環境経営研究所)
 

​(2023年8月)​
 

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