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重要な原材料(critical raw materials)と活性材料(active materials)とは

【1.重要な原材料(critical raw materials)と活性材料(active materials)とは】
1.    重要な原材料(critical raw materials)と活性材料(active materials)
金属、鉱物、天然素材などは、現在の生活に必要不可欠であり、そのなかでも経済的に最も重要で、供給リスクの高い原材料は重要な原材料(critical raw materials:以降CRM)と呼ばれています。技術の進歩と生活の質の向上は、ますます多くのCRMに依存することを意味します。たとえば、スマートフォンには最大50 種類の金属が含まれている可能性があり、そのすべてが小型化、軽量化、機能性に貢献しています。そのため、CRMを確実かつ安定的に調達することは、EUだけでなく、世界的にも懸念されている課題となっています。
いっぽう、活性材料(active materials)とは化学的な用語ですが、2020年12月に採択された欧州委員会による電池規則案(1)のなかでは、「電池セルが放電するときに化学的に反応して電気エネルギーを生成する材料を意味する」と定義され、電池の機能として必要となる材料です。

2.    EUにおける重要な原材料(critical raw materials)を取り巻く状況
EUの産業と社会への鉱物原材料の持続的かつ安全な供給を確保することを目的として、2008年に原材料イニシアチブ(2)が示されました。このなかで、EUにおける統合された原材料戦略として以下の3つ柱を明示しています。
・他の需要者と同じ条件で、国際市場から原材料を入手できるようにする。
・EUで産出される原材料の持続的な供給を促進するため、EU域内に適切な枠組みを設定する。
・全体的な資源効率を高め、リサイクルを促進することによりEU の一次原材料の消費を削減し、相対的な輸入依存度を低下させる。
さらに欧州委員会が優先行動として、EU にとって重要な原材料を定義することを推奨し、加盟国および利害関係者と緊密に協力して、重要な原材料の共通リストを特定することを提案しています。
これを受けて、2011年、欧州委員会による原材料における連絡文書(3)によりCRMの最初のリストが示されました。このリストでは、アンチモンやコバルトといった14種類のCRMが特定されており、CRMごとに主な生産国、EUへの主な輸出国、輸入依存率、リサイクル率などが明示されています。この文書のなかで、欧州委員会は引き続きCRMの問題を監視して優先行動を特定して、加盟国および利害関係者とともに検討するとしています。また、少なくとも 3 年ごとに、CRMのリストを定期的に更新するとしています。その後、2014年に6種類の原材料が加えられ、20種類のCRMが特定された2番目のリスト(4)が公表され、2017年には27 種類のCRMが特定された3番目のリスト(5)が公表されています。
現在、最新版のリストは、2020年に公表された30 種類のCRMが特定された4番目のリスト(6)となっています。2020年のリストでは、ボーキサイト、リチウム、チタン、ストロンチウムが初めてリストに追加されましたが、ヘリウムが経済的重要性の低下により除外されています。ただし欧州委員会は、新しいデジタルアプリケーションとの関連性を考慮してヘリウムを引き続き注意深く監視するとしています。
欧州委員会はCRMの特定のため、経済的重要性と供給リスクの観点で重要性評価(7)を実施しており、2011 年には41種類、2014 年には54種類、2017 年には78種類、2020年には83種類の原材料が評価され、CRMが特定されました。

 


3.    電池規則案における活性材料(active materials)とCRM
電池規則案の根拠となる新たな循環型経済行動計画(8)では、電池の持続可能性と透明性に関する要件として、電池製造の二酸化炭素排出量、原材料の倫理的調達と供給の安定性、および再使用、再利用、リサイクルの促進を考慮するとしています。
このことにより電池規則案の第8条では、電池の活性材料(active materials)において、廃棄物から回収した原材料を使用する目標値を定めています。対象は産業用電池、電気自動車電池、および内蔵ストレージを備え容量が2 kWhを超える自動車用電池として、2030年1月1日以降、廃棄物から回収した12%のコバルト、85%の鉛、4%のリチウム、4%のニッケルを最低割合で含有することが要求されています。さらに2035年1月1日以降は、廃棄物から回収した20%のコバルト、85%の鉛、10%のリチウム、12%のニッケルを最低割合で含有することが要求されています。
上述の2020年のCRMリストでは、コバルトとリチウムがCRMとして特定されており、ニッケルはCRMに特定されていませんが、電池の需要増加に関わる動向を考慮して、監視対象としています。また、本リストの報告のなかで、電気自動車電池とエネルギー貯蔵の蓄電池への使用を目的として、EUでは2030年には現在の供給と比較して最大で18倍のリチウムと5倍のコバルトの需要が見込まれ、さらに2050年には60倍のリチウムと15倍のコバルトが必要となると説明されています。電池規則案は原材料の再使用、再利用、リサイクルの促進をすることを前提としていますが、これは、環境負荷の軽減とともにEUにおける原材料政策の3番目の柱として、原材料の輸入依存度を低下させて安定的な供給を確保するという側面を持っていることが伺えます。

4.    まとめ
現状、EUでは多くのCRMの供給を特定の国家や企業に依存しています。将来的には、人口増加、産業化の推進、輸送の脱炭素化、エネルギーシステムやその他の産業部門による需要の増加、発展途上国からの需要の増加、新しい技術の応用といった世界的な変化のなかで、金属と鉱物の需要は急速に増加することが見込まれています。そのため、欧州委員会は、CRMを将来の危機に備えてより強靭で、より広域な戦略的自律性を持つ必要がある分野のひとつとみなしています。

引用先
(1):https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52020PC0798
(2):https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2008:0699:FIN:en:PDF
(3):https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52011DC0025
(4):https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52014DC0297
(5):https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52017DC0490
(6):https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52020DC0474
(7):https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/2d43b7e2-66ac-11e7-b2f2-01aa75ed71a1/language-en/format-PDF/source-32064602
(8):https://ec.europa.eu/environment/circular-economy/pdf/new_circular_economy_action_plan.pdf
(一社)東京環境経営研究所
 

​(2022年11月)​
 

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