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新企画:事故はなぜ起こった?

その1 次亜塩素酸ナトリウム
食品加工場で箱詰め等の作業を行っていたところ、作業開始約1時間後に吐き気等の症状を訴えた。作業開始の約3時間前に密閉された加工場において次亜塩素酸ナトリウムの希釈液を散布し、機械等の洗浄・滅菌作業を行っていた。
[なぜ起こった?]
次亜塩素酸ナトリウムのSDSには危険有害性情報:呼吸器への刺激のおそれ、安全対策:屋外又は換気の良い場所でのみ使用すること、ばく露防止及び保護措置:適切な呼吸器保護具を着用すること、とあります。また、次亜塩素酸ナトリウムは熱や光によって分解して塩素ガスを発生することが報告されています。塩素ガスの許容濃度は0.5ppmととても厳しいものです。そこまで詳しく知る必要は必ずしもありませんが、SDSに「屋外又は換気の良い場所のみで使用」「適切な呼吸器保護具を着用」とあるものを、密閉された加工場で散布したまま作業させたところに原因があります。SDSの注意書きはよく読んで、資材は正しく使いましょう。
余談ですが、イギリスでは食器を洗剤で洗った後、洗剤をすすがずに食器に付着させたままにしている人がいるという話を聞いたことがあります。そのほうが清潔な気がするから、だそうですが、よく似ていますね。
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に、簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
[なぜ起こった?]はJEMAIオリジナルです。
 
その2 ドライアイス
[発生状況]
 社用車の後部荷物室に新聞紙で包んだドライアイス174 kgを積み運搬していたところ、気化した二酸化炭素が車内に充満し呼吸困難となった。事業所に戻った時点で意識が薄く、救急車で病院に搬送され、右小脳出血、急性二酸化炭素中毒、高血圧性脳内出血と診断された。
[なぜ起こった?]
 最近はドライアイスを見る機会が減りましたが、昭和の頃はクリスマスのアイスクリームケーキに冷却剤として3cm角ほどの大きさのドライアイスが付いてきたりしていました。水に入れて白い靄を出して遊んだりしたものです。このドライアイスが174kgになるとどうなるか、という問題です。
 174kgのドライアイス(比重1.56g/cm3)はおよそ畳1枚分の大きさですが、これが大気圧下で全部気化するとハイエース10台分の体積になります。これだけの体積の二酸化炭素が、その一部でも車内に侵入すれば二酸化炭素中毒になる危険性を考えるべきでした。
「え?二酸化炭素で中毒?」と首を傾げたあなた、そうです問題はそこです。JEMAIのセミナーで詳しくご説明していますが、有害性のない化学物質などありません。二酸化炭素は大気中濃度が0.04%(2018年、WDCGG)なので有害性が発現していませんが、高濃度では有害性が現れます。GHS分類結果によればラットのLC50(半数致死濃度)は470000 ppm/0.5h、47%の二酸化炭素濃度に30分間曝露されたラットは半数が死んだわけです。これは酸欠による死ではなく、二酸化炭素の有害性による死であることにご注意ください。
 教科書的にはリスクアセスメントが不十分、作業手順書が不備、などを原因として報告書が処理されるのでしょうが、本質はそこではありません。現場で扱っている資材に有害性があることを認識していなかったことが根本的な原因でした。有害性があると思わなければ注意もしないでしょうし、安衛法対象物質でなければリスクアセスメントもしないでしょう。
 社員が扱っている全ての資材に有害性がある前提で工程管理や社員教育など行うことが、社員を守る第一歩です。
 そういえば、ドライアイスで冷却しなければならないワクチンが実用化されるようですが、もしもお知り合いに医療従事者の方がいらっしゃったら、高濃度の二酸化炭素には有害性があることに注意されるように教えてあげてください。(ワクチンについてとやかく言っているのではありません念のため。高濃度の二酸化炭素に注意してくださいという意味です念のため。)
 
その3 バルブが動かない
[発生状況]
アンモニア水タンクの弁閉止作業の際、ボールバルブが固着していたため、潤滑油をステム(弁棒)に馴染ませ、暫くたった後、1名が液面計本体を手で支え、1名がモンキーレンチをパイプに差し込んだもの(約89cm)でステムを回した直後、ボールバルブのふた部分が破断、脱落し、アンモニア水(濃度約25%)が噴き出し、2名に被液、1名は防液堤内で意識を失い倒れ、5日後に死亡した。同じ作業を行っていた1名は防液堤外に脱出し軽傷、救助にあたった1名も軽傷を負った。
[なぜ起こった?]
アンモニア水は皆さんご存じの通り、腐食性の強い液体です。
http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aegl/agj/ag_Ammonia.pdf
GHS関係省庁連絡会議が平成18年度に実施したGHS分類結果によれば急性毒性(経口):区分4、皮膚腐食性/刺激性:区分1A-1C、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性:区分1、特定標的臓器毒性(単回暴露):区分2(呼吸器系)とされています。
https://www.nite.go.jp/chem/ghs/06-imcg-0557.html
日常語でいえば、危ない液体です。そんな危ないものが流れているバルブが固着していた。でも仕事なのでこれを開けなければならない。さあどうするか。
実は私もこのようなこと(アンモニアを、ではありません。モンキーレンチにパイプをかまして力づくで開ける)をしたことがあります。その時はバルブが壊れる前にパイプが歪んだので、作業を中断して専門家に任せました。流体は確か高圧窒素だったと思います。保護眼鏡はしていましたが、最悪バルブの破片が飛ぶか何かでケガをしていたでしょうね。ということを、後になって気が付いてぞっとしました。
「できません」が通らない職場では、何とかして作業をしようとしてしまいがちですが、ケガをしてまで、ましてや死の危険を冒してまでしなければならない仕事など、民間企業ではあり得ません。「できねえじゃねえよやれよ」が普通なブラック企業もありますが(この事例の会社様のことではありません。私の経験です)、まともな会社にお勤めの皆さんは安全第一でお願いします。
 
その4 混ぜるな危険
[発生状況]
 飲料水浄化設備室に設置されている濾過用薬注ポンプの点検中、次亜塩素酸ナトリウム液を補充しようとしたところ、誤って近くに箱積みされていたポリ塩化アルミニ
ウムを濾過用ポンプに入れたため、塩素ガスが発生して塩素ガス中毒になった。
[なぜ起こった?]
 「混ぜるな危険」の典型ですね。JEMAIのセミナーでご説明していますが、「機械は壊れるもの、人は間違うもの」が事故防止の鉄則です。この事例では「誤って近くに箱積みされていたポリ塩化アルミニウムを」がポイントです。「誤って近くに」なのか「誤って箱積み」なのか「誤ってポリ塩化アルミニウムを」なのか文意がはっきりしませんが、どれもダメです。 間違えるようなところ(近く)に、間違えるような荷姿(箱積み)で、間違えてはいけないもの(ポリ塩化アルミニウム)を置いたら、そりゃあ間違えるでしょうよ。まず、ポリ塩化アルミニウムのような水に溶けやすいものを水関連施設内に箱積み?箱って段ボールじゃないですよね。床に直置きしてませんよね。作業性の都合で近くに置いたのだとしたら、作業者の安全よりも作業性を優先したことになります。リスクアセスメントというものがわかっていない。「混ぜるな危険」が混ざらないようなフールプルーフができていない。せめて次亜塩素酸ナトリウムとポリ塩化アルミニウムの置き場所・容器の色と形・大きさ・手触りを変えて、取りに行くときに/見ただけで/触った瞬間に/持った時に、間違いに気づくようにしておくのが最低限です。加えて一人作業を禁止して相互確認を徹底する、しつこいくらいに安全教育する、などしなければ現場の安全は守れません。
 たかが水浄化設備で二人作業だと?工数管理というものがわかっているのか!とお叱りがきそうですが、塩素ガス発生を防ぐための工数(つまり作業者の安全を確保するための工数)は計上しているんですか?
 ツッコミどころ満載の事例だから楽だなと思って取り上げましたが、ツッコミどころがありすぎるのも記事にしにくいということを、書きながら実感しました。

その5 ジクロロメタン
[発生状況]
 作業場内にて、内径1.11m、高さ1.115mの円筒状の真空装置部品の内壁を、被災者がジクロロメタンを主成分とする洗浄液を用いて洗浄作業中にジクロロメタンを吸入し、中毒を被災した。当該作業時において、被災者は呼吸用保護具を着用していなかった。また、当該事業主が被災者に対して有機溶剤に対する安全衛生教育を実施しておらず、当該作業に係る作業手順を示していなかった。
[なぜ起こった?]
 この事例の洗浄対象の汚染物がどんな化合物だったのかはわかりませんが、ジクロロメタンを使うということは有機物が重合して付着して溶けにくくなっていたのかもしれません。洗浄という現象には機械的な洗浄と化学的な洗浄があり、化学的に洗浄する場合は対象物が溶ける液体を使います。・・・え?界面活性ですか?化学に詳しい方がいらっしゃいますね。すみませんが目をつぶっていてください。そこに手を出すと長くなるので。はいそうです言い訳です。
 さてと、この事例ではジクロロメタンでなければ洗浄できない汚染物だったのだろうと思いますが、例えばそれほどでもない汚染物相手に、溶かせばいいんだろうとばかりに大抵のものが溶けてくれる便利なジクロロメタン(とかジクロロプロパンとかトリクレンとか)を使うと中毒のリスクが高くなります。リスクが高いなら高いなりに防護策を徹底してリスクを下げなければいけませんが、この事例では被災者が呼吸用保護具を着用しておらず、また安全衛生教育未実施で作業手順を示していなかったそうです。安全衛生教育をしていなくとも、洗浄中の容器内部は相当臭かったと思うんですが。
 それはそれとして、特にこの事例のような非定常作業の場合、作業工程のリスクを低く設定できるならそれに越したことはありません。仮にジクロロメタンよりは有害性の低いIPAやアセトン(1)などでも洗浄できるならそうするべきです。いやIPAやアセトンであっても、リスクに見合った防護策を徹底しなければならないのは当然ですが。
 
 リスクの高い作業にはそれに見合った厳重な対策が必要です。その分コストもかかるし作業者の負担も増えます。作業工程を設計する段階でより低リスク低コストな工夫をすれば、作業者はうれしいあなたもうれしい会社もうれしいのいいことずくめ、になるといいですね。
 
(1)ジクロロメタン:管理濃度50ppm、IPA:管理濃度200ppm、アセトン:管理濃度 500ppm 
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
[なぜ起こった?]はJEMAIの見解ではありません。筆者個人のオリジナルです。
 
その6 容器が破裂
[発生状況]
 金属表面処理剤の製造工場内で、処理剤仕込み作業の際、硝酸を誤ってぎ酸の容器(ポリエチレン製)へ入れ、この容器を保管場所である劇物置場へ置いていたところ、ぎ酸と硝酸が反応して生成した炭酸ガスにより約1時間後に容器が破裂し、ばく露被災したもの。薬傷3名。
[なぜ起こった?]
 この事故のポイントは本業での故であるということです。JEMAIのセミナーでご説明していますが、「機械は壊れるもの、人は間違うもの」が事故防止の鉄則です。壊れても被害がでないように設備はフェールセーフにする、操作を間違おうにも間違いようがないように設備はフールプルーフにする、もまた事故防止の鉄則です。間違おうにも間違いようがないようにする方法としては、状況は異なりますが例えばタンクローリーから保管タンクへ次亜塩素酸を供給する場合であれば、PACと間違えないようにタンク毎に接続口の形状やサイズを変えておく、などがありますが、この事例のような手作業での間違いを防ぐにはどうすればいいでしょうか。
 ところで皆さん、お店で買い物をして1万円札で支払うとレジの人が「1万円入ります」と言いますが、その理由は御存じですか?
・お客さんとのトラブル防止(「千円札じゃねーよ万札だよ」防止)
・お釣りを間違えないように
・防犯のためレジに大金を貯めないように「1万円入ります」を一定数聞いたら店長がバックヤードへ持っていくなど。らしいです。今ネットで調べました。
 自動化できる工程を自動化し、リスクの高い薬剤を可能であれば代替化したうえで、残った手作業の間違いを防ぐには、こういう相互チェックを欠かさない、しかないでしょう。フールプルーフを徹底するために大がかりな設備にしてしまうと作業性が劣り費用対効果も期待できなくなります。設備操作が面倒になると、私だったらインターロックを解除してちゃちゃっとやっちゃうかもしれません。元も子もない。
 ただし、相互チェックがなれ合いにならない仕組みを作っておく必要があります。ただしそれも仕組みが複雑すぎるとインターロック殺しが蔓延するでしょうね。
 月並みですが教育と習慣化が第一です。間違うとどうなるのか、どんな目に合うのか、よーく理解してもらうことだと思います。そのためには会社側が、現実的な「起こりうる誤使用」を臨場感を持って教育できなければなりません。教育することになっているからと形だけの教育を行って、教育記録をISO14001のエビデンスにするこ
とが目的にならないように気を付けましょう。
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html
[なぜ起こった?]はJEMAIの見解ではありません。筆者個人のオリジナルです。

 

その7 弁から漏れ
[発生状況]
弗化水素酸製造プラントの発煙硫酸ハンドコントロール弁が弁座シート漏れを起こしていたため、手動弁を閉じていたが、作業者が当該弁の弁座シート漏れを失念し、反応器の起用前に手動弁を開放したため、反応器内に発煙硫酸が流入した。この時反応器内で発生した弗化水素酸が外気吸入口から漏洩し、風下でプラント建設作業を行っていた被災者らが吸入したもの。中毒10名。
[なぜ起こった?]
「作業者が当該弁の弁座シート漏れを失念し」というのがわかりません。事故防止を個人の記憶に頼っているということでしょうか?弁座シート漏れがあったのに、交換せずにほっといたということ?フッ酸の製造プラントなのに?交換作業が予定されて
いたらバルブもしくはライン全体に「使用禁止」「交換工事〇月〇日連絡先△△課」ぐらい表示するでしょう普通。手動弁を解放できないように物理的措置もするもんでしょう。失念して手動弁を開放したということは、弁漏れがあることを知りながら放
置して何の手当もせずに運転できる状態にしていたということにしか読み取れません。事故現場を見ずに想像で書いていますので、もしも故障を失念して手動弁を開放せざるを得ない状況であったのなら深くお詫び申し上げます。どんな状況か見当もつ
きませんが。
 こんな管理をする工場が日本にあるとはとても思えないのですが、あったのでしょうね。それにしてもそんな管理下で作業して被災した作業者には同情します。「失念するのが悪いんだ!」とブラック企業なら罵倒されるでしょうが(この事例の会社様のことではありません。私の見聞きした経験上です)、作業者個人の責任にして始末していたら再発防止は遠い夢のまた夢ですね。被災者が被災したのにもそれなりに理由はあるのかもしれませんが、個人の特性によって被災しうるのだとしたら、それは管理されていると言えるのでしょうか。企業はなぜ事故を防止しなければならないのか、考え直す必要があると思います。
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ここで紹介した事故事例は厚生労働省ホームページ「化学物質による災害発生事例について」に掲載されている事例を元に簡略化等の編集を行ったものです。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/index.html

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