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カーボンフットプリントとは

【1.カーボンフットプリントとは】
1.カーボンフットプリントとは
世界中で2050年等をターゲットとしたカーボンニュートラルの動きが加速しています。温室効果ガス(GHG)の直接的な発生源はエネルギーを消費する発電所や工場等の特定のサイトになりますが、製品のライフサイクルで見ると原材料の調達から製品製造、流通、使用、廃棄など様々な段階があります。このような製品のライフサイクルに係る各段階のGHG排出量の合計値をライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて算定したものが、その製品のカーボンフットプリントとなります。カーボンフットプリントによってGHG排出量が「見える化」されることで、その製品に関わる各活動主体のGHG排出量削減活動が促され、製品のカーボンフットプリントの削減や、ひいては社会全体のカーボンニュートラルへの推進に寄与するものとなります。
EUでは、2008年の理事会勧告「持続可能な生産と消費および産業政策に関する活動計画1)」を契機に、カーボンフットプリントに関する各種取組みが進められ、2013年には「製品および組織のライフサイクル環境パフォーマンスを算定・伝達するための共通手法の使用に関する欧州委員会勧告(2013/179/EU)2)」が策定され、自主的な取組みのパイロットプロジェクトとして、食品や二次電池などを含む様々な製品種の「製品環境フットプリントカテゴリールール(PEFCR)」の策定などが進められてきました3)。このパイロットプロジェクトの結果を受けて、現在は、製品および組織のライフサイクル環境パフォーマンスを算定・伝達するための環境フットプリント手法の使用に関する欧州委員会勧告((EU) 2021/2279)4)」に改正されています。
日本においても経済産業省によって、2008年からカーボンフットプリントの制度検討や試行事業が進められ、2012年から民間事業者によって制度運用が行われています5)し、その他の国々でも各種の制度が運用されています。

2.電池規則案に見る「カーボンフットプリント」の要件
このようにカーボンフットプリントについては、各国で検討が進められてきましたが、あくまでも自主的な活動としての位置づけでした。しかしながら、2020年に公表された電池指令改正案(電池規則案)では、「第7条 電気自動車用電池および充電式産業用電池のCO2排出量」によって、カーボンフットプリントが製品要件として新たに追加され、次のような3つのステップで適用していくことが示されました。
1)    カーボンフットプリントの宣言
2)    カーボンフットプリントによる性能分類の表示
3)    カーボンフットプリントの上限設定
また、カーボンフットプリントに関しては附属書IIで詳細が示されており、例えば、GHG排出量の算定範囲としては、原材料の調達・前処理、製造、流通、廃棄・リサイクルといった段階を含めることや、製品が提供する機能等を定量的に示した算定の単位となる機能単位は1kWhとすること等が定められていますが、具体的な算定方法は、前述の欧州委員会勧告((EU) 2021/2279)やPEFCRに基づいて実施することが求められています。
電池規則案については2022年12月に欧州議会と理事会が暫定合意に達したことが発表6)されたことから、近いうちに採択され、官報公示されるものと想定されます。

3.電池規則案以外の法規制におけるカーボンフットプリントの位置づけ
EUグリーンディールに基づき、制定間近の電池規則に加え、様々な法規制の改正が検討されており、いくつかの法規制の検討にあたってカーボンフットプリントが言及されています。
その1つとして、2022年3月に公表された現状のErP指令(エコデザイン指令)を改正する「持続可能な製品のエコデザイン要件に関する規則案7)」が挙げられます。これまでのErP指令では、製品が順守しなければならない要件として、主に製品の使用時におけるエネルギー効率が対象となっていました。しかしながら新たな規則案では、エネルギー効率に加え、耐久性やリサイクル材の使用といった資源循環や、「環境およびカーボンフットプリントを含む環境影響」も要件として設定可能な枠組みとなっています。
具体的な要件は、新たな規則案が制定された後に、製品種ごとに具体化されることになりますが、先行した電池規則案に続き、他の製品についても欧州委員会勧告((EU) 2021/2279)やPEFCRに従ったカーボンフットプリントが製品要件として求められるものと想定されます。
また、REACH規則の改正に向けた検討8)においても化学物質の登録に必要な情報の追加が検討されており、その中には「環境フットプリント」が挙げられており、今後公表される改正案の中身が注目されているところです。

4.最後に
すでに多くの国々でカーボンフットプリントに関する固有の制度が運用され、日本においても、多くの企業でカーボンフットプリント等、製品ライフサイクルのGHG排出量の見える化に向けた取組みが進められていますが、これまではいずれも自主的な取組みが主でした。EU グリーンディールに基づき、カーボンフットプリントを製品要件や情報要件とする法制改正の動きは大きな変化であり、運用が開始されればEUに製品を直接輸出する企業のみならず、そのサプライチェーンに所属する企業にも影響を及ぼすものと想定されます。また各国がカーボンニュートラルに向けた取組みを強化する中、先導するEUの取組みがEU域外国の制度に影響を及ぼすことも考えられます。
サプライチェーンを通じた情報伝達として、製品含有化学物質規制への対応が従来から進められていますが、将来的にはGHG排出量についても対応が求められることが想定されます。なお、日本でも一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が「Green x Digital コンソーシアム9)」を設立し、デジタル技術を活用したサプライチェーンを通じたGHG排出量を見える化するプラットフォームの構築等の活動が進められており、今後の成果が期待されています。

引用先    
1)理事会勧告「持続可能な生産と消費および産業政策に関する活動計画
https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-16914-2008-INIT/en/pdf
2)欧州委員会勧告(2013/179/EU)
https://eur-lex.europa.eu/eli/reco/2013/179/oj
3)欧州委員会 グリーン製品イニシアティブ
https://ec.europa.eu/environment/eussd/smgp/index.htm
4)欧州委員会勧告((EU) 2021/2279
https://eur-lex.europa.eu/eli/reco/2021/2279/oj
5)一般社団法人サステナブル経営推進機構 SuMPO環境ラベルプログラム
https://ecoleaf-label.jp/
6)    欧州委員会 プレスリリース
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_7588
7)持続可能な製品のエコデザイン要件に関する規則案
https://environment.ec.europa.eu/publications/proposal-ecodesign-sustainable-products-regulation_en
8)REACH規則の改正に関するイニシアティブ
https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/12959-Chemicals-legislation-revision-of-REACH-Regulation-to-help-achieve-a-toxic-free-environment_en
9)Green x Digital コンソーシアム トップページ
https://www.gxdc.jp/

(一社)東京環境経営研究所)

​(2023年2月)

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