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連載:RoHSをやれと言われたら

 

その1 何だRoHSって
 「来月からロースを担当してくれ」と言われたらどうしますか?
 「・・・肉屋?」と思うでしょう。筆者もそうでした。「なぜ職場でトンカツの話を ・・・」と。
 RoHS。ロースと言ったりローズと言ったり、欧州の人がアールオーエイチエスと言っているのを聞いたこともあります。The restriction of the use of certain hazardous  substances in electrical and electronic equipmentの前半の頭文字を取ってRoHSと呼ばれます。 
 交流1000V以下、直流1500V以下で動作する電気電子製品に対する製品含有化学物質規制です。EUから始まって今では中国、インド、ロシア、UAEなど様々な国に拡がっていますが、この稿ではEU-RoHSに限定して話を進めます。
 さてそのRoHS、担当するとなったらまず、法文を読んで法的要求事項を確認するところから始めるのが順当です。法的要求事項が分かったら、次は自分の会社にどれだけのRoHS対象製品があるのか調べることになるでしょう。このとき大事なのは、法の対象なのか顧客対応の対象なのか、その区別を明確にすることです。
 RoHSの最大の要求事項は第4条にあります。「EU加盟国は上市される電気電子製品(EEE)に禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」というものです。RoHS指令の「指令」たる所以がここにあります。この法は欧州委員会がEU加盟国政府に対して指令するものなのでRoHS「指令」と呼ばれます。
 ここから大事なことが2つ読み取れます。一つは、欧州市場に上市されるEEEに対して法的効力を有するのはRoHS指令ではなく、RoHS指令に基づいてEU加盟各国が策定するRoHS各国法であることです。したがって官憲的発想をすれば、欧州にEEEを上市する事業者はRoHS指令だけでなくRoHS各国法も読まなければならないことになります。とは言ってもEU加盟28ヵ国すべての各国法をどこまで読むか、現実的に対処することになるでしょう。ちなみにEU加盟国のうち、法を英語で読めるのは英国、アイルランド、マルタの3か国だけです。筆者はエストニア語もオランダ語もチェコ語もその他もろもろ、さっぱりわかりません。
 もう一つは、この法は上市されるEEEに対する法であるということです。欧州市場に上市された最終製品としてのEEEが法の対象であって、そのEEEを構成する個々の部品にRoHSが直接効力を持つことはありません。
 法の対象なのか顧客対応の範疇なのか、その違いによって何が変わるのか、次号でご説明します。

その2 法だからね
 工業製品を製造・販売するには、どんな種類の製品であれ上市先がどこの国であれ、何らかの法規制を受けます。RoHSが特別視されがちなのは、これまで法規制の対象でなかった含有物質を規制する法律だからではないでしょうか。それにしたところで、食品や衣料では当たり前の規制ですが電機電子業界では驚きでした。
 なぜ驚きなのか。性能を上げるため、省資源化のため、価格を抑えるため、製品寿命を延ばすために使っている鉛や可塑剤などを「使うな」と言われたからです。しかもその理由が、廃棄物が不適切に処理されても環境及び作業者に害が及ばないように、という訳の分からない理由だからです。廃棄物は適切に処理するのが鉄則でしょうに。欧州では違うんでしょうかね。
 とは言っても法は法。昔そのような名言を残して毒杯をあおったギリシャの哲学者がいました。我々も今、毒杯をあおらされている訳です。
 さて前回お話したように、RoHSは上市される最終製品が法の対象です。最終製品製造企業には法が適用されるので、法を守るために設計・調達・製造・品証・発送・販売といった製造業の全ての局面で全工程において管理を徹底します。全工程において管理を徹底、と文字にすれば一言ですが、製造業の実力が如実に現れることです。これがどれだけ大変なことか、やったことのある人でないとわからないでしょう。
 一方、最終製品でない部品にRoHS各国法が直接適用されることはないので、部品の供給業者は供給先企業からの顧客要求だけ対応すればよいことになります。実はここに楽(?)な面と困った面の両方があります。
 楽な面とは、万一規制物質が自社製品に混入しても、法の罰則を受けることはないので売買契約に従って顧客に対応すれば済むことです。場合によっては損害賠償を求められるかもしれませんが、市場からの製品回収等にまつわる億単位の損金発生やEU加盟国の執行当局との対応、風評被害による損失、さらには社内での責任問題や体制再構築などなど、最終製品製造企業が被り得る被害に比べればまだ軽い方だと思います。
 困った面は・・・あまり書きたくないんですが次号で。

 

その3 顧客要求
 最終製品を構成する部品や部材、その原料などを製造する川中・川上メーカーにはRoHS各国法が適用されませんが、顧客要求には対応しなければなりません。先月号で「困った面」と言ったのは、顧客の数だけ様々な要求が来て納期までに対応しなければならないからです。

 法が適用される最川下のセットメーカーは法の要求事項を正しく認識しているはずです。さもなければ痛い目に会いますから。最川下に直接納品しているサプライヤーさんも、最川下から正しく要求事項が伝わっているはずです。これが3つ4つとサプライチェーンを遡って経由していくと伝言ゲームになってきます。そのため重要な点が抜け落ちたり余計な情報が加わったりして混乱の元となります。
 例えばRoHS規制10物質を使うなという顧客要求がサプライチェーンを遡って伝言ゲームされるとどうなるか。大元の最川下メーカーが規制10物質を何千という個別のCAS No.に展開して調査しているとして、それが遡るにつれてRoHS規制10物質とい説明抜きで何千というCAS No.の調査票だけが送られてくると、調査を受けた企業はただひたすら調査票を処理することに追われます。理由がわかれば効率化できるところを、理由がわからないのでひとつひとつ一から顧客対応しなければなりません。
 「健康のためラーメンを規制します。ラーメンとはとんこつ、ミソ、しょうゆなどのことです」という解説があれば分かるものを、「とんこつ、ミソチャーシュー、背油しょうゆ、等を規制する」と言われると、「じゃあ、ちゃんぽんもダメなのか?天ぷら蕎麦なら大丈夫か?」と疑心暗鬼になるようなものです。
 これだけでも困るところに、ついでにグリーン調達調査でVOCも調べる、などと言われた日には業務がパンクします。
 こういった、顧客からの「ついで調査」や独自様式調査が何百社も来たら、川中メーカーさんはそれだけで企業の体力を奪われることになります。
 サプライヤーに調査様式を送る企業さんにも都合があるのはよくわかりますが、相手先企業さんの事情にもご配慮をいただければと思います。「我ガ身サヘ富貴ナラバ」と言ったのは応仁の乱の原因を作った日野富子だそうですが、日本全体の製造業の体力が落ちたら、自社の調達にも支障が出てくるのではないでしょうか。

その4 どこまでやれば
RoHS担当になると、「どこまでやればいいのさ!」と途方に暮れます。適用除外はしょっちゅう変わり、対象物質も追加され、社内製品は常に入れ替わり、顧客との取引も常に変わり続ける。本稿の範囲からはそれますが、EU-RoHS以外のRoHSも次々増え、さらに妙な要求事項が増える。対象製品も管理レベルも常に見直し続けなければなりません。責任範囲は増える一方で、さりとて人が補充される見込みもない。一体どこまでやれば・・・。
企業の論理はご存知ですね。「混入させるな。この先ずぅ~っとだ」が答えです。仕事がなくなる恐れがないことだけが救いです。偉くなって逃げる、という手もありますが。
 では実際のところ、どこまでやればいいのか。対象の深さと広さの2軸で考えることが大切です。深さとは、どこまでのリスクを取るのかという判断です。広さとは、それぞれの対象製品がいくつかあるか、です。ここで「いくつ」の数え方は会社によっても製品によっても異なります。製品シリーズで管理できるのか、型番まで細かく管理するのか、混入リスクと管理の実態を考慮した現実的な判断が求められます。深さについても広さについても、どこまでのリスクを許容するのか決めることがリスク管理の原則です。
 やろうと思えば、徹底した混入管理も可能です。ただし、設計・調達・製造・品証・発送・販売の全ての局面について徹底的に管理すれば、営業利益が損なわれます。その一方、営業利益を優先して混入リスクを緩く管理すれば、事故が起こる確率が上がります。自社がどのようにリスクマネジメントするのか。それは経営層の判断に委ねられることになります。
 なのでRoHS担当になったらまず、・法的要求事項を理解し・自社にどんなリスクがあるのか把握し・どこまで管理するのか数通りの可能性を想定し・どんな事態が起こり得るか、その時何をしなければならないかを整理して、経営層に報告して判断を求めるのが順当です。
 とはいえ2006年にRoHS1が発効して早や13年。もうすでに前任者がやっているでしょうからそれを確認して、現時点の状況に合わせて運用するだけのことです。ただし、過剰な管理をしないためにも、事故を未然に防ぐためにも、こういった見直しは常にやっていなければなりません。
 昔はゼロリスクという変な宗教を信じている人がいて過大な負荷を要求していました。最近はそういう迷信はなくなった(はず)なので、理性的に進めることができるはず、だといいですね。

 

その5 電気製品じゃないよ
取引先企業(サプライヤー)さんとRoHSやREACHについて話していると、「うちのは電気製品じゃないから関係ないですよ」と言われることがあります。いやありました。RoHS施行後数年ぐらいは。いやこっちは電気製品なんですがと言っても、「お宅の製品は電気製品でしょうけどうちのは違います」と言われて困りました。
RoHSの法的要求事項は指令第4条にあるように、「EU加盟国は上市される電気電子製品(EEE)に、鉛などの禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」です。上市される最終製品が電気電子製品であれば、それを構成する全ての部材・部品について「鉛などの禁止物質が含まれないことを確実にしなければならない」のです。
この説明に対して今までに言われたこと:
「それはおかしい」
「うちが納入するのは○○ですよ。電気製品な訳ないじゃないですか」
など。他にもありますが書けません。
丁寧に説明すれば最後にはわかってくれますが(こっちは客なので)、不満は顔に出たままです。そんなに理不尽なことを言ってしまったのだろうか・・・いや理不尽なのはRoHSだっ!と自分を慰める羽目になります。
これはまだいい方で、製品カテゴリー違いについては先方も知識があるだけに頑固じゃなくてご自分の主張をはっきり持っていらっしゃいます。
「それはおかしい」
「うちが納入するのは○○ですよ。○○はカテゴリー9って書いてあるじゃないですか」
いえ最終製品のカテゴリーで決まるんですがと言っても
「うちが作る最終製品でしょ?カテゴリー9なんですよ」
えーとどう言えばいいのか。RoHSの最終製品とはEU市場に上市される時点での製品であることを、まず理解していただかないことには話が進みません。製品カテゴリーが違うと使える適用除外が違うことがあるので、理解してもらえないと困ったことになります。欧州に単体で上市する最終製品であればカテゴリー9となる制御機器をカテゴリー3の消費者製品に組み込んで上市する場合などにこういうことが起こったりします。そんなやり取りが昔はありました。
最近はそんな話も聞かなくなってきたなぁと思っていたら、しばらく前ですがとある業界の方が「客先からロースとか言われて調べたんだけどどういうことだ?」と問い合わせに見えられました。ご説明しましたが終始不機嫌そうな表情でした。この法律を作ったのは欧州であって私ではない!ということだけでもわかってもらえたのかどうか。
製造業でRoHSに関わっておられる皆様、心中お察しします。

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