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連載:化学の仕事って?

その1 何の呪文だ
製造業で化学物質管理業務に初めて就くと戸惑います。特に生産現場からの異動だと、今まで邪険にしていた業務を自分がやらないといけない。これは戸惑います。
新しい業務についたときにどこから手を付けるかは業務によってそれぞれ効率的な入り方がありますが、製造業の化学物質管理業務の場合、まずは法律から入るのも一つのやり方です。
業種に関わらず共通する法(1)は化審法、化管法、水濁法、大防法、廃掃法といったところでしょうか。まあいやがらずに。安衛法も重要ですが総務が主管している場合も多いでしょう。毒劇法と消防法も重要ですが、業種によっては関わらない場合もあります。
とりあえずこれらの法律の法的要求事項を調べて、会社のどの業務にどう関わるのかを調べます。ここまでは前任者が既にやっているはずなので、引継いでいれば(いるはずなので)問題ない(はず)です。
さて業務に取り掛かったら最初に戸惑うのが、「ノニルフェノールの排出量は何キロだ?」「このCAS No.違ってるぞ!」といった呪文攻撃です。のにる何?きゃす?なにがなにやら。
化学を専攻していない方には呪文以外の何物でもないでしょう。エクスペクト・パトローナームッ!!!(2)とでも言ってくれたほうがまだ気が楽かもしれません。
つい「CAS No.」と書いてしまいましたが、実はこの言い方は正しくありません。所謂CAS No.というものは米国化学会の情報部門であるCAS(シーエーエス)が付与、管理しているもので、民間の所有物です。その持ち主であるCASが数年前に、CAS No.と呼ばれているものの正式名は・CAS Registry Number
・CAS RN
・CAS登録番号
のいずれかであると決めたので、CAS No.という言い方は現在では間違いになっています。
とはいっても、いままで「キャスナンバー」と言っていたものを「違いますよシーエーエス登録番号って言うんですよ」とやるのはやめましょう。「なんや自分ケンカ売っとんのか!」と上司のヤクザ性が火を噴くのがオチです。ブラックではないまともな企業だったら「あ、そうなの」と正しい知識が広まっていくのでしょうね。
おっと話がそれました。
次回は呪文対策として、化学物質の名前との付き合い方についてお送りします。
(1)法律の略語
・化審法:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
・化管法:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律
・水濁法:水質汚濁防止法
・大防法:大気汚染防止法
・廃掃法:廃棄物の処理及び清掃に関する法律
・安衛法:労働安全衛生法(「労安法」という人もいます)
・毒劇法:毒物及び劇物取締法
・消防法:消防法(略語ではないですね)
(2)呪文
・エクスペクト・パトローナム:ハリーポッターの呪文「守護霊よ来たれ」

 

その2 名前がわからん
すべてのものには名前があり、その名前には意味がある・・・
スピリチュアルな話をしている訳ではありません。化合物命名法のことです。化合物命名法とは、元素や化合物が反応して生成した化合物の名前を付ける文法体系です。
ざっくり化学物質の名前の読み方のことだと思っていただいて結構です。
さていきなりですが、ポリクロロビフェニルという化学物質をご存じですね。知ってるはずです。
な、なんだよそれ知らねーよ!と思った方も多いかと思いますが、「ポリ」はたくさん、「クロロ」は塩素、「ビ」は2つ、「フェニル」はベンゼン環(いわゆる亀の子)から水素原子が1個取れたものを意味します。塩素がたくさん付いたベンゼン環が2つつながっている化学物質のことです。PCBという通り名で知られています。
こんな風に、呪文にしか聞こえない化学物質名ですが、実は意味のある言葉を特定の文法に従って組み合わせて作られています。このルールさえわかればどんな物質名でもその構造がわかり、どんな化学物質なのかわかるようになっています。ドイツ語より簡単です。
もっとも、企業で化学物質管理をするのであれば、化合物命名法をマスターする必要などまったくありません。
「ビフェニル」ん?PCBの仲間か?
「ブロモ」臭素?難燃剤か?
「ホスフェイト」リンの化合物?毒性は大丈夫か?
こんな感じで物質名を見て、どんなリスクがあるか察しが付くだけで十分です。
何の察しを付けるのか。作業者の安全と、法規制の対象かどうか、です。
作業者の安全は、労働安全衛生法第五十七条の三の定めるところにより事業者が実施するリスクアセスメントによって担保されています。そういうことになっています。ですが現場でどこまでリスクを把握して作業しているでしょうか。扱っている資材がアジ化物だとして、それが爆発する可能性を認識しているかどうかで現場の安全性はまったく違ってきます。あるいは資材にホスフェイトが入っているとして、防護の必要性をどこまで認識しているか。手順書に書くかどうかではなく、教育記録を保管するかどうかでもなく、どこまで臨場感を持って認識している/させているか、です。リスクアセスメントをちゃんとやっていることが前提ですが。
一方の法規制の対象とは、使ってはいけないもの(化審法や安衛法など)、使ってもいいが排出を制限するもの(水濁法とか大防法とか)、排出に制限はないがどれだけ排出したか把握しなければならないもの(化管法)、工程で使ってもいいが製品に入ってはいけないもの(RoHSだのREACHだの)、など、法の要求事項によってさまざまな管理が求められます。自社の工程で扱う資材にどんな化学物質が含まれていて、どんな法のどんな要求事項が適用されるのか、明確にしなければなりません。
法とその要求事項については、後ほど。