GADSLについて
【1.GADSLについて】
製品含有化学物質に関する情報を伝達するには、「情報フォーマット」「伝達プラットフォーム」「対象物質リスト」が必要です。前回4月号で紹介したIMDS(International material data system)は、前者の2項目をカバーしています。今回は、自動車業界で業界統一リストとして使用されている製品含有化学物質管理リストであるGADSL(Global automotive declarable substance list)(*1)を紹介します。
最初にGADSLは、「製品に含有する管理対象化学物質リスト」であり、化学物質の使用/環境への排出や安全に関わる規制による化学物質は含まれていないことに留意が必要です(例えば日本の化学物質排出把握管理促進法、労働安全衛生法等)。これらは、企業が操業における法規適合の仕組みの中で管理するのが通例です。
GADSLは自動車業界の「製品含有化学物質管理リスト」であり、自動車メーカーは仕入れ先に、このリストに収載されている化学物質について、報告を求める位置づけとしています。GADSLは、毎年2月頃に定期改定するほか、必要に応じて期中改定を行うケースもあります。GADSLは2005年に初版が公表されて以来、毎年更新を続け、現在は2024/2/1に”2024 Version1.0”が公開されています。2024年版GADSLには、290物質群、約6400物質が収載されています。注意すべき点は、GADSLのHPにも記載されているように「GADSLに収取されている物質は必ずしも禁止物質ではなく、潜在的な規制物質も含まれており、すべてに対し代替措置を行うものではない」ということです。GADSLは、「廃絶物質リスト」ではないことに注意が必要です。
GADLのHPを開くと“Contact information” ”Guidance document”と“Reference list”の3文書が添付されている。” Contact Information” は後述するGASG〈*2)のメンバーリストであり、” Guidance document” はGADSLの説明やリスト管理の仕組みについて説明している。” Reference list” がいわゆるGADSLと総称される管理対象物質リストとなります。当リストは、“物質リスト” “過去の変更履歴” ”CAS番号でのサーチページ” ”Version情報と注意点”の4シートから構成されるブックとなっています。リストの構成は、左から「物質名(Substance)」(前に ? がついている場合は、関連物質が折り畳み記載)、「CAS番号」、「分類 (Classification)」、「収載理由(Reason code)」、「参照法規情報 (Source)」、「規制期限(Effective date)」、「使用例 (Generic examples)」、「申告閾値(Reporting threshold)」、「収載日 (First added)」、「情報変更日 (Last revised)」となっている。リストはアル
ファベット順となっており、新規収載物質がある場合、番号にズレが生じていくことに注意が必要である。リストを利用するうえで注視する項目は「分類」、「収載理由」と「参照法規」と思われるので以下に詳細に説明します。
「分類」は、「P:禁止」、「D:要申告」、「D/P:禁止/要申告」の3種類となっています。ガイダンス文書によるとそれぞれ、「P : 禁止」と記載された物質は、少なくとも 一か所の地域/市場ですべての自動車用途が禁止されているか、定められた閾値による規制があるもの「D : 要申告」と指定された物質は、定義された閾値制限を超えた場合に申告するもの「D/P:要申告または禁止」として指定された物質には、少なくとも 一か所の地域/市場で使用が許可されているもしくは禁止されている両方のケースとなっています。IMDSの閾値は、原則0.1%ですが、カドミウムのように法規制閾値(0.01%)が異なる場合は、「申告閾値」に記載され、申告には定められた閾値が用いられます。
「収載理由 (Reason code)」については、「LR:法規制物質」、「FA:アセスメント物質」、「FI:情報収集物質」の3種類に分類されています。「LR」は、自動車部品・材料に使用された場合、環境や健康への影響があり、法規で規制されているもの 「FA」は、自動車業界として、政府機関が規制を導入する可能性があるとしたもの「FI」は、業界として、自動車/部品に含有している場合、情報提供を求めるものとされています。リスト上No154 ”Nickel and its compounds, all members” のようにFI/FA/LRと記載されたものは、?で化合物レベルに添加した
場合、各分類の化合物が存在する場合です。
「参照法規」については、条約、EU法、に加え米国・韓国・日本の法規も必要に応じて引用されています。
GADSLはあくまでCAS番号ベースのリストとなっています。これは「工業的に意図的に添加するような化学物質は、CAS番号が存在する」という考え方に基づいています。近年のPFAS規制のように、「すべてのPFAS類」を求められる場合もありますが、GADSLでは、化学工業会と議論の上、工業的に製造したPFASを選定し、リストに収載しています。
次にGADSLの維持管理について述べさせて頂きます。「物質リスト」は一度作成したら終わりではなく、規制の変化を反映させ更新していく必要があります。GADSLでは、GASG ”Global Automotive Stakeholder Group”という組織を作りリストに関わる維持管理活動を進めています。GASGは、3極の自動車・化学・自動車部品業界がメンバーとなっています。例年、春先から法規動向等を考慮しリストへの物質追加/削除について「技術文書(ドシエ)」を作成し意見交換を行い、11月の総会で、翌年版のGADSLを確認しています。年央に大きな情勢変化が生じた場合、必要に応じて期央改定も実施されています。
今後、「ナノマテリアル」のように同一のCAS番号で物理的形状が異なる場合の取り扱い、資源循環性の中での「リサイクル材中の過去に使用した残留規制物質」の扱い、「重要原材料」の扱い等についても議論が進められ、IMDSもしくはGADSLの扱いが定められていくことになると思われます。
自動車関連業界では、20年近く、IMDSとGADSLによる製品含有化学物質管理を進めており、今後もこの枠組みの中で推進すると思われます。
(*1) GADSL:https://www.gadsl.org/
(*2) GASG:OEM(Original Equipment Manufacturers/自動車の完成車メーカー)や、各段階における部品サプライヤー、材料メーカーを含む組織
(2024年5月)