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連載:続・RoHSをやれと言われたら

その1 適用除外を使う(1)
「鉛が入っているんですけどどの適用除外が使えますか?」という御相談を何度か受けたことがあります。一瞬唖然とします。その時は幸いにして該当する適用除外がありましたが、マックのバイト中に「どのクーポンが使えますか?」と聞かれているのだろうかとデジャブに襲われました。マックでクーポンが使えなかったら定価を払えばすみますが、RoHSで鉛が入っていて適用除外がなかったら法違反です。これを同じトーンで聞かれると愕然とします。とはいえ使える適用除外があれば使うのは当然の権利です。そこで適用除外の調べ方、使い方についてさわりだけ。
RoHSに限らず、海外法規はできる限り原文で読んでください。翻訳には限界があります。異なる言語間で意味が一致することは、ラテン語系どうしならともかく、日本語と欧州言語とではまずありません。ありうる誤解としては
1.和訳が技術的に不正確
2.英語の係り結びが和訳で正確に/一意的に再現できていないなどがあります。ここで誤解を招きかねない適用除外の和訳の例をご紹介すればいいのですが、刺されるのはごめんなのでやめておきます(刺されるのがいやならこんな連載やめればいいのに、とも思いますが、お困りの方も多くいらっしゃるのであえて連載しています。ご理解賜れば幸いに存じます)。
とはいえまったく例がないと何を言っているのかわからないので、1.の技術的に不正確な架空の例を一つ。架空です。私が今作った架空の訳です。
7(c)-I Electrical and electronic components containing lead in a glass or ceramic other than dielectric ceramic in capacitors, e.g. piezoelectronic devices, or in a glass or ceramic matrix compound.
この “ceramic matrix compound” を、matrixを落として「セラミック化合物」と訳したとすると、セラミックスの結晶構造中に鉛イオンを含むセラミックスという意味になります。これだと結晶構造中ではなくマトリックスの粒間に鉛を含む部品にはこの適用除外が該当しないことになり、使える適用除外が使えなくなります。詳しく知りたい方はOekoが2016年6月に発行したFinal reportのp,460をご参照ください。
2.の架空の例としてAnnex IVの16、
Mercury in very high accuracy capacitance and loss measurement bridges and in high frequency RF switches and relays in monitoring and control instruments not exceeding 20 mg of mercury per switch or relay.
を「非常に高精度の静電容量および損失測定ブリッジ、および監視・制御機器の制御機器の高周波RFスイッチおよびリレー中の20 mgを超えない水銀」と訳したらどうでしょう。(原文をWeb翻訳してさらに私が意図的に誤訳したものです。こういう和訳は見たことがないので例示しましたが、もしも万が一どちらかの企業様で似たような和訳をしておられましたら決して故意ではございません全くの偶然ですひらにひらにご容赦ください。)原文の主語の “Mercury” はその次2つの “ in” にかかり、3つめの “in” はこれらをひっくるめて “monitoring and control instruments” に限定していますが、誤訳ではブリッジが監視制御機器に限定しないように読めます。また、ブリッジ全体に対して20mgを超えるなと厳しくなっているようにも読めます。これは極端な、しかも間違った例ですが、原文を読まずに和訳だけで適用除外を解釈すると、使える適用除外が使えなかったり使えない用途に適用除外を使えると誤解したりするおそれがあります。和訳がおかしいと思ったら、または和訳を読んで自分と違う解釈をする人がいたら、必ず原文で確認してください。
とは言っても普通の日本人が読める言語は日本語と英語ぐらいでしょう。筆者はオランダ語もギリシャ語も中国語もタイ語も全くわかりません。ですので筆者の場合、原文で読める海外法規はEUとアメリカ、カナダなどに限られます。ブレグジット後も英語がEU公用語として残るのかという議論もありますが、マルタもアイルランドも英語は公用語なので残ると思います。残ってほしいです。きっと残るでしょう。残るに違いない。さて、まず読むべきはもちろんRoHS指令のAnnex IIIとIVです。適用除外の読み方について、次号で。

 
その2 適用除外を使う(2)
適用除外を使う際に読むべきは、もちろんRoHS2指令のAnnex IIIとIVです。Webの解説ページは参考にはなりますが、相手は法なので、必ず一次文献を参照してください。
また適用除外は法なので改正や新設が頻繁にあります。常に最新版を読んでください。最新版はEUR-Lex(https://eur-lex.europa.eu/homepage.html)にあります。副題に “Access to European Union Law” とあるように、EU法令のホームページです。日本のe-Govみたいなもんです。
ここで適用除外が確定するまでの法的手続きをおおまかに御紹介します(RoHS2指令第5条)。適用除外を延長したいステークホルダーは、有効期限の遅くとも18か月前までに延長申請します(第5条第5項)。申請を受け取った欧州委員会はDelegatedactによって適用除外を修正(延長/新設/廃止)します。欧州委員会の決定が遅れている(有効期限が過ぎているのに決定が出ていない)場合は、決定が公布されるまで有効(第5条第5項)。決定されるとEU官報が公布されます。
ここで補足説明が2点。
その1、「延長申請する」という言い方について。
この「延長申請する」という言い方が、2010年前後は相当な誤解を招いていました。「申請する」という言葉を日本の市役所の窓口の感覚で受け取った人がこう言っていたのを思い出します。「延長申請すればいいんでしょ?」「本社が代表して申請してください」「いつごろ許可がおりますか?」等々。これを聞いていて私の脳裏に浮かんできたイメージは、・・・電車を降りて駅を出て7分ほど歩いて商店街を抜けるとEUの役所があって窓口に延長申請書があって必要事項を書いてハンコを押して窓口に出すと係の人がポンポンと受理印を押してくれて「手数料は200円です納付はそちらの精算機でどうぞ」・・・いやいやちょっと待てなんだこのマヌケな画は。実際は業界団体加盟企業延べ数十社が約2年かけて取り組んだ、業界をあげての一大事業でした。延長が必要な適用除外数件について海外の業界団体とも議論し、必要があれば連携して技術文書を作成して欧州委員会に送り、技術的な問い合わせに対して何度かメールでやり取りし、EU環境総局へのロビーイングもやりました。Okoからの「明日中に返事しろ」という無理難題に一人で技術文書を(もちろん英語で)作って対応した猛者もいました(ドイツからの「明日中に」メールを日本で昼間に読むと「今日中」になります。困ったもんだ)。技術的にも行政的にも時間的にもどれだけ大変な作業か、やった人でないとわからないでしょう。もっとも内部事情のかたまりなので、当事者以外に話すことはできないのですが。
その2、Delegated actについて。は次号で。

 
その3 適用除外を使う(3)
(前回までのあらすじ)
ステークホルダーからの延長申請を受け取った欧州委員会は、Delegated actと呼ばれる手続きによって適用除外を修正(延長/新設/廃止)します。さて今月号は、そのDelegated actについて。日本では、例えば化審法には法と規則と施行令とその他技術基準などの政省令や通達・告示などがあります。法だけでは運用しきれない、現実に即した細かな規定や修正などを政省令や通達・告示等で運用しています。日本国憲法第四十一条により法を制定できるのは国会だけなので、例えば法第十八条で「許可を受けた者でなければ、第一種特定化学物質を製造してはならない」ことを決めますが、具体的にどんな化学物質が第一種特定化学物質なのかは「政令で定める」(法第二条第二項)として、3省合同審議会等で第一種特定化学物質を決めて政令で公布しています。同様にEUでも、成立した法が適切に施行されるように、欧州議会と欧州理事会は欧州委員会に対して
“delegated act”を実施する権限を与えることができるとされています。Delegated actは委託法令と訳され、・EU法の本質的な部分を変えることはできない・対象、中身、範囲、期間を規定しなければならない・欧州議会とEU理事会は委任を取り消すまたは結果に反対することができるという制限の下で実施されます。RoHS適用除外の延長/新設/廃止もこの仕組みで審議されます。・・・というEU法の手続きよりも、適用除外の延長は今どうなっているのか、に関心がありますよね。今どうなっている、を①どの項目について延長申請されているか、②どの項目に結論が出ているのか、に分けると、それぞれ以下のURLから調べることができます。
① https://ec.europa.eu/environment/waste/rohs_eee/adaptation_en.htm
ステークホルダーが申請して欧州委員会が受理したものがここに記載されます。欧州委員会が受理したものはコンサルで審査されますが、コンサルでの審査が終わったら、Delegated actによって適用除外項目の修正(延長/新設/廃止)が決定し、官報が公布されることで法として確定します。決定した修正を掲載したEU官報は
② https://ec.europa.eu/environment/waste/rohs_eee/legis_en.htm
にあります。このURLを開くと「Exemptions (Annex III and IV)」の項目に、決定した修正が掲載されているEU官報が一覧されています。RoHSだけの官報ではないので、公布されているたくさんのEU官報の中から目的のものを探さないといけません。けっこう面倒です。けっこう面倒ですが、適用除外は法文の一部なので、官報のみが正です。法を相手にしていることに、常にご留意ください。

 
その4 適用除外を使う(4)
10月号でも書きましたが、適用除外項目を和訳で読んで日本語の語彙で解釈することは危険です。どう危険なのか。たとえ正しい和訳であっても、法が意図する技術とは違う解釈をする恐れがあるからです。法が意図する?法は文言の通りに施行されるものだ!という方もおられるでしょう。それはある程度まで正しい。日本では。RoHS指令はEU法であり、さらにRoHS各国法の執行は各国の国家主権行使です。日本の常識で推し量ることは危険です。この場合は、法文に書かれた文言を技術的に正しく解釈して製品を製造し、万一事が起こったら執行当局者に対して法文(つまり適用除外項目の文言)に即して技術的かつ法的に説明する必要がある、とご理解ください。
適用除外項目に記載された文言がどんな技術を指定しているのか理解するためには、OkoのFinal reportを読むことが最良の手段です。例として2002/95/EC(RoHS1の最初のDirective)のAnnexの第7項第4号、”lead inelectronic ceramic parts (e.g. piezoelectronic devices).”を見てみます。古くかつ極端な例ですが、現在の実機に近い例を出すわけにはいかないのでこれを例に挙げています。この適用除外項目の修正を審査したFinal reportはAdaptation to scientific and technical progress under Directive 2002/95/EC, Oko-Institute.V. and Fraunhofer Institute, 20 February 2009です。この98-113ページに、2002/95/EC の7(c) Lead in electronic ceramic parts (e.g. piezoelecronic devices)が2010年のCommission Decisionによって7(c)-I、7(c)-II、7(c)-IIIの3つに分かれた理由が説明されています。残念ながら簡単に説明してもパワーポイント3枚(メルマガにしては多すぎる字数)になるので割愛します。ざっくり言うと、この適用除外を適用できる技術がより具体的に細分化されたものとご理解ください。詳細はすみませんがFinal reportをご覧ください。なんだその不親切な書き方は!すみませんメルマガなので字数が限られています。ご容赦を。