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US TSCAのPBT規制動向

1.    はじめに
米国の連邦法である有害物質規制法(Toxic Substances Control Act:TSCA)*1による難分解性、高蓄積性、毒性を有する物質(Persistent, Bioaccumulative, Toxic:PBT)の規制動向に関しては、特に第6条(h)によるPBT指定5化学物質の動向が注目を集めており、いまだにたくさんの質問が寄せられています。
TSCAでは、PBTの規制は前述の第6条(h)以外にも第5条(e)に基づく重要新規利用規則(Significant New Use Rules:SNUR)でも規制されています。また、ポリ塩化ビフェニル(Poly Chlorinated Biphenyl :PCB)は第6条(e)で規制されています。
このようにTSCA におけるPBT規制が条文の異なる場所に分散していることがこの法律をわかりにくくしている一因かと思います。

2.TSCAの歴史
このようなTSCAの構造を理解するためには、まずこの法律がたどってきた歴史を理解する必要があります。
TSCAは1976年10月に議会承認を経て公布され、1977年1月に発効しました。発効後に何回かの小修正を経て2016年6月に大幅な改正が行われ、特に第6条に(f)から(j)が追加修正され、その他にも修正や削除がされて、大幅な強化が行われました。
前述の第6条(h)「難分解性、生物蓄積性、毒性のある化学物質」の条項もこの改正により追加されたものです。これに伴い第6条(h)(5)「サブセクション(b)との関係」に今回の大改正が行われた2016年6月22日の90日後より前にリスク評価が行われて「優先順位が高い物質」に指定された物質および製造業者等からリスク評価の要求があり認められた物質は対象外と規定されています。
したがって、大改正前にリスク評価が開始されたか評価が完了した物質は、それまでの規制方法である第5条に基づくSNUR規則で規制されることになります。具体的にはPFOAや特定PFCA(C7~C20)などのPBTがSNUR規則の対象となっています*6。
第6条(e)のPCBに関しては、この条項が1977年の発効時点で存在していた条項ですので第6条(h)の対象外となっています。

3.TSCA第6条によるPBT規制動向
第6条は既存化学物質のリスク評価およびそれを受けてのリスク管理(規制)を加速することを目的に改正されたものであり、評価の加速のために物質に優先順位を付けて優先順位が高い物質から評価を行っていく仕組みとなっています。
リスク評価される物質は、TSCA化学物質評価作業計画(TSCA Work Plan for Chemicals Assessments:WP)*2リストから優先順位付けに基づいて米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)が主導で行う場合と、製造業者等からの要求をEPAが承認して開始する場合の2とおりあります。WPリストには、各化学物質に有害性(Hazard Score)、ばく露性(Exposure Score)、および難分解性・高蓄積性(Persistence & Bioaccumulation Score)の3つのスコアが付けられています。基本的にはこの3つのスコアがすべて最高点(3点)のものが高優先順位物質と考えられますが、その中でも第6条(b)(2)(D)で、優先順位付けにあたり(i) 難分解性・高蓄積性スコアが3点、または(ii) 既知のヒト発がん物質または高い急性および慢性毒性を有する化学物質を優先することが規定されています。
EPAはこの規定により最初にリスク評価を開始する10物質を2014年改訂WPリストから選択しリスク評価を完了しています*3。以後常時高優先物質20物質および低優先物質20物質程度を選択しリスク評価を継続することになっています。
リスク評価の結果、不当なリスクをもたらすと結論された物質に関しては第6条(a)にしたがって規制を行います。10物質のなかのPBT物質としてはヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)の規制案を作成中です*4。今後の動向把握には、定期的に改訂されるリスク評価の進捗報告書*3を確認していくことが必要です。

一方で第6条(h)では特定PBT物質の(1)迅速な対応が必要であるので2014年改訂WPリスト物質から以下の①から⑤の条件に当てはまる物質を選択し、(2)リスク評価なしで(4)「ばく露を減らすために実行可能な範囲で物質に規制を加える。」となっています。
ここで注意が必要なのは、第6条(h)で規制するPBT物質は以下の選択条件に合致するPBT物質のみであり、それ以外のPBT物質は第5条または第6条の上記手続きを経て第6条(a)により規制されるという点です。
選択条件:
①TSCA 化学物質作業計画の手順書(Work Plan Chemicals Methods Document)*5に従って、管理者が有毒であると結論付ける合理的な根拠を持っている。
②難分解性および高蓄積性スコアに関して、一方が高く他方が高または中程度であること。
③金属または金属化合物ではない。
④2016年6月22日以前にリスク評価が開始されていない。
⑤物質の使用によりヒトと環境へのばく露が認められる。
今回のPBT指定5化学物質(DecaBDE、PIP (3:1)、2,4,6-TTBP、HCBD、PCTP)もこの選択条件が適用され、すべての物質が難分解性および高蓄積性スコアの両方が高(High)の物質の中から選定されました。
5物質のリスク評価は行われず、時間を優先してばく露を減らすことのできる「実行可能な範囲」の規制を行ったものです。
今後対象物質が追加される場合にも同様に2014年WPリストから上記条件に該当する物質が選定されると考えられますので動向の確認が必要です。

4.TSCA第5条によるPBT規制動向
第5条では、インベントリーに収載されていない化学物質を製造(輸入)または加工するには90日前までに目的に関する製造前届出(Pre-Manufacture Notice:PMN)をEPAに提出し、EPAが重要新規利用(Significant New Use)と認定した場合には重要新規利用規則(Significant New Use Rule:SNUR)を公布して使用を規制します。SNUR規制物質の製造または加工には90日前までに重要新規利用届出(Significant New Use Notice:SNUN)が必要です。
前述のように第6条の規定により2016年6月以前に届出されたPBT物質はSNURで規制されています。
例えば今注目を集めているPFOA及びその塩、PFOS、PFCA、およびPFHxSなどのPFAS類はSNUR*6の対象です。
PFAS類全体の規制に関しては「PFAS戦略ロードマップ」*7にしたがい包括的に規制することが検討されています。具体的にはEPAは、2019年にTSCA第8条(a)(7)を追加し、2011年1月1日以降にPFAS類を製造(輸入)した製造者に、物質名(CAS)、目的、製造量、ばく露情報、および廃棄情報等を報告する義務を課しました。この報告義務によりEPAはPFAS類全体の市場での現状把握を行い、次のステップとしてPFAS類の包括的規制に繋げる意図と思われます。

5.まとめ
今回はTSCAのPBT規制動向の解説ですが、米国が判例法主義であることもありTSCA自体がたいへんわかりにくい構成です。たとえば、第1条がUS Code上には存在せず(当初は有ったが途中で削除)第2条がセッション番号を詰めて2601から始まっています。また、途中の大改正で条文が追加修正されているが当然ながら修正されていない従来規定も有効で、追加修正部分との整合性を執るために同じ法律の中で棲み分けを行っていることなどです。そこで本稿ではTSCAの歴史から紐解いて読者が少しでも混乱なく理解して頂き、今後の動向を知る上で何を確認したら良いかがわかるように解説を試みました。
米国におけるPBT規制はTSCAのみならず、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法
(Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act [7 U.S.C. 136 et seq.])、連邦食品医薬品化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act [21 U.S.C. 321])、および水質保全法(Clean Water Act[33 U.S.C. 1251 et seq.])など目的に応じて分かれています。
また、各州には州法でPBT規制関連法があり、PFAS類の包括規制などに関しては州法が一歩先を行っている傾向にありますので注意が必要です。
最後になりましたが、米国はPOPs条約に調印はしていますが、批准をしていませんのでオブザーバーとしての参加のみで、POPs条約に拘束されないことを付け加えておきます。

(情報提供 (一社)東京環境経営研究所)