モジュールA1の適合宣言とは
【1.モジュールA1の適合宣言とは】
1.電池規則案と適合性評価基準
2020年に公表された電池規則案(*1)は2022年12月に暫定的な政治合意に達し (*2)、今後、正式な採択を経て発効していく見通しです。発効される電池規則案は循環型経済を目指しており、規定された適合性評価手順を経てカーボンフットプリントなどの要件を満たしていくことになります。以下の通り、電池規則案が規定する適合性評価手順は条項により「モジュールA」と「モジュールA1」に分かれており、その内容は附属書Ⅷに規定されています。
適合性評価手順として「モジュールA」を規定
第6条(有害物質の規制)
第9条(携帯用電池の性能及び耐久性)
第10条(充電式産業用電池及び電気自動車用電池の性能及び耐久性)
第11条(携帯用電池の取り外し及び交換可能性)
第12条(設置型蓄電池システムの安全性)
第13条(ラベル)
第14条(電池の状態及び予測寿命に関する情報)
適合性評価手順として「モジュールA1」を規定
第7条(カーボンフットプリント)
第8条(リサイクル)
第39条(サプライチェーンデューデリジェンス義務)
上記のように電池規則案に対応するには「モジュールA」および「モジュールA1」に基づいて適合宣言をする必要があります。ここで記載されている「モジュールA」および「モジュールA1」は、EU市場における適合性評価手順を定めた「決定(EC)
768/2008」(*3)にて定められた内容です。モジュールA1の適合宣言はこの「決定(EC)768/2008」に記載されている内容への適合を宣言することを指します。
2.モジュールA1とは
先にあげた決定(EC)768/2008では、EU調和法が特定の製品に関して適合性評価を実施することを要求している場合、その手順を附属書IIに規定し、指定されたモジュールの中から選択するとしています。モジュールA1はこの附属書IIで規定されているモジュールの一つです。適合性評価を実施するモジュールについては、次の(a)~(d) の基準に従って 選択するものとしています。
(a)該当するモジュールが製品の種類に適しているかどうか。
(b)製品に伴うリスクの性質、および適合性評価がリスクの種類と程度に対応できる。
(c)第三者の関与が義務付けられている場合、製造業者は、品質保証モジュールと製品認証モジュールのどちらかを選択できるようにする。
(d) 関連する法律がカバーするリスクに関して負担が大きすぎるモジュールを課すことを回避する。
「決定(EC)768/2008」の附属書ⅡでモジュールA1は「内部生産管理と監視付き検証」と記載されています。また、モジュールAは「内部生産管理」との記載ですので、「監視付き」という文言の有無がモジュールA1とモジュールAの違いとなりま
す。モジュールAが内部生産管理として基本的に製造業者内で完結するのに対し、モジュールA1については、第三者機関による検証も必要ということになります。
以上から電池規則案におけるカーボンフットプリントに関する条項などは、内部のみで完結した場合、算定する根拠や解釈のばらつきなどが発生するリスクを考慮して第三者機関が介在するモジュールA1を選択したものと考えられます。
3.モジュールA1の内容
電池規則案の附属書Ⅷ Part BをもとにモジュールA1の内容を確認していきます。内部生産管理と監視検証からなる適合性評価手順であるモジュールA1は、製造業者が以下の(A)~(C)にあげられるような定められた義務を果たし、定められた要件を満たしていることを保証および宣言することになっています。
(A)技術文書
製造業者は技術文書を作成して定められた要件への電池の適合性を評価することを可能にするものとし、リスクの適切な分析と評価を含む。技術文書は、該当する要件を指定し、電池の評価、設計、製造、および操作に関連する限りカバーする。技術文書には、該当する場合、少なくとも次の要素を含める必要がある。
(a)電池の一般的な説明
(b)コンポーネント、サブアセンブリ、回路の概念設計および製造図面およびスキーム
(c) (b)で言及されている図面とスキームの理解に必要な説明と説明および電池の動作に関するテストレポート
(B)製造
電池をEU市場に出す製造業者または輸入業者は、製造プロセスとその監視により、製造された製品が技術文書など該当する要件に準拠していることを確認するために必要なすべての措置を講じる。
(C) 製品と情報の監視
該当する各電池モデルに関して、製造業者または輸入業者はEU市場に出す各バッチについて、要件への適合性を検証する。テストは電池モデルまたは電池のバッチの1つまたは複数の特性について1回以上実施する。大型電池バッチの場合、製造業者、認定代理人、または輸入業者は、統計的に代表的な電池のサンプルを選択する必要がある。電池モデルをEU市場に出す製造業者または輸入業者は、指定された条項に関する情報と文書を認証機関に提出し、該当する要件への準拠を検証しなければならない。
上記のうち、特に(C)に記載されている内容が附属書Ⅷ Part AにあるモジュールAの内部生産管理と異なる点であり、モジュールA1の特徴的な部分となります。
4.まとめ
モジュールA1は適合宣言にあたり、認証機関による検証が必要となります。電池規則案は条項により適合性評価基準が分かれるという内容で構成されており、モジュールA1はその中で選択されているモジュールの一つです。企業をはじめとする利害関係者は、該当するEU法に関する適合性評価基準を確認し、適切な手順を用いて適合宣言に対応する必要があるといえます。
引用先
(*1) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52020PC0798
(*2)https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2022/12/09/council-and-parliament-strike-provisional-deal-to-create-a-sustainable-life-cycle-for-batteries/?utm_source=dsms-auto&utm_medium=email&utm_campaign=Council+and+Parliament+strike+provisional+deal+to+create+a+sustainable+life+cycle+for+batteries
(*3) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32008D0768
(一社)東京環境経営研究所)
(2023年6月)