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PFASの規制物質情報

【1.PFASの規制物質情報】
PFAS汚染に関するネットニュースや新聞、TVでの特集報道が多くなっています。日本ではPFASのうちPFOAとPFOSが、2020年(令和2年)に水質汚濁防止法に基づく「要監視項目」に設定されました。暫定指針値はPFOAとPFOS合算で50ng/Lです。
令和5年7月25日の環境省「PFASに対する総合戦略検討専門家会議(第4回)」の配付資料で、PFOS及びPFOAの検出状況(*1)が示されています。
(i)公共用水域 測定地点数 816 超過地点 38
(ii)地下水 測定地点数 317 超過地点 43
 東京都では、令和3年度から5年度のPFOS、PFOA及びPFHxS調査結果を公表(*2)しています。 PFOS、PFOAの合計濃度が暫定指針値を超えたのは260報告数中で27報告となっています。
 ネットニュースでも、広島県東広島市、千葉県柏市や東京都多摩地域での汚染状況を取り上げ、住民が自治体に対応求める活動を行うなどが取り上げられています。
 アメリカのEPA(Environmental Protection Agency)は、2024年4月10に飲料水基準して、PFOS、PFOAは4ppt、PFHxSは10pptとする最終規則を公示(*3)しました。
 日本の基準より厳しく、新たな議論が始まるのではと思われます。

現状は、日本のPFAS汚染はPFOS(per-fluoro-octane-sulfonic acid)、PFOA(per-fluoro-octanoic acid)及びPFHxS(Per-fluoro-hexane-sulfonic acid)が対象
となっています。いずれも完全フッ素化された直鎖アルキル基(C=8またはC=6)にスルホ基またはカルボ基を有する構造を持っています。PFAS(Per- and poly-fluoroalkyl substances ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)は、アルキル鎖に複数のフッ素原子が結合した有機フッ素化合物です。最近はC=9~21、完全フッ素化されていない、スルホ基またはカルボ基を有する、その塩が対象ということで、物質数は1万を超える規制となっています。
PFASは、消火剤だけでなく、紙や段ボール(食品接触材料)、個人用保護具、家庭用テキスタイル、アパレル製品の織物など多用されており、多くの利害関係者が存在します。
規制対象となるPFAS情報を整理してみます。
 
1.国際的規制(条約)の動き
1.1 POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)
国際条約のPOPs(Persistent Organic Pollutants)条約では、PFOS並びにPFOA及びPFHxSとその塩並びにその関連物質が対象となっています。
 2023年10月のPOPs条約の規制対象物質について検討を行う「第19回 残留性有機汚染物質検討委員会」(POPRC19)(*4)で、C=9~21のLC-PFCA (Long-chain Per and Polyfluoroalkyl Substances)とその塩及び LC-PFCA 関連物質の使用の適用除外を認めた上で、廃絶対象物質(附属書A)に追加することをCOP(Conference of the Parties 締約国会議)に勧告することが決定されました。なお、POPRCは適用除外の用途を更に明確化するための情報を収集は継続します。POPs条約の附属書の改正は、COPでの採択を受けて、国連事務総長が締約国に採択を通知し、締約国は、受諾拒否や条件を付けることもできますが、通知により1年以内に国内法を整備します。国連事務総長の通知及び通知を受けた締約国の対応状況はPOPs事務局のサイト(*5)で物質、国別に検索確認(*6)できます。細かには、その通知を国連事務総長に寄託した90日後に当該締約国について発効します。

1.2 経済協力開発機構(OECD)
OECD(Organisation for Economic Cooperation and Development)では、ポリマーを含めてPFAS、特に長鎖PFASの主な過去および現在の用途、ヒトの健康と環境と
の関連性に関する科学的情報(環境へのばく露源、ヒトへの曝露、環境動態、ヒトへの潜在的な悪影響)、代替案、および規制アプローチに関する現在のPFASの理解の概要を提供するために、2006年に過去からの論文等を集約した報告書を発行(*7)しています。

非高分子PFASグループは4区分としています。
(i)Perfluoroalkyl acids (PFAAs):CnF2n+1R (ii)Perfluoroalkane sulfonyl fluoride (PASF):CnF2n+iSO2F
(iii) Perfluoroalkyl iodides (PFAIs):CnF2n+1I
(iv)Per- and polyfluoroalkyl ethers (PFPEs)-based derivatives

長鎖(LC)PFASは以下としている。
(i)PFOA(C8)およびPFNA(C9)などの7以上のパーフルオロアルキル炭素を含むPFCA
(ii)PFOA(炭素またはC8 PFCAを含む)およびPFNA(炭素9またはC9 PFCA)などの7以上のパーフルオロアルキル炭素を含むPFCA
(iii)長鎖PFCAまたはPFSAに分解する可能性のある物質、すなわちPASFおよびフルオロテロマーベースの化合物などの前駆体

ポリマーPFASグループは3区分されています。
(i)Fluoopolymers
(ii)Side-chain fluorinated polymers
(iii)Perfluoropolyethers

これらの区分による2006年の対象物質は約4,500物質(*8)です。
 その後、2021年に少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチルまたはメチレン炭素原子(H/Cl/Br/I原子が付着していない)を含むフッ素化物質と定義し、「ペルフルオロアルキル物質とポリフルオロアルキル物質の用語の調和: 推奨事項と実践的なガイダンス“Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance”」(*9)を発表しました。さらに、2022年11月に 報告書「分岐鎖フッ素化ポリマーとそのライフサイクルを理解するための合成レポート“Synthesis Report on Understanding Side Chain Fluorinated Polymers and Their Life Cycle”(*10)を発表しました。本報告書は、OECD/UNEP Global PFC Groupが2021年7月から2022年4月までの間に行った、分岐鎖フルオロ化ポリマー(SCFPs)のライフサイクルに関する公開されている科学的および技術的情報の総合的なまとめを提供したものです。

2.アメリカの動き
2.1連邦法
(1)「1,462物質リスト」についてEPAは、2023年10月にTSCAに基づくPFAS関する報告と記録保管要件規則を公示しました。対象となるPFASは以下です。

次の 3 つの部分構造の少なくとも 1 つを構造的に含む化学物質または化学物質を含む混合物を意味する。
(1) R-(CF2)-CF(R′)R″: CF2とCFの部分は飽和炭素
(2) R-CF2OCF2-R′: RとR′はF、O、または飽和炭素のいずれか
(3) CF3C(CF3)R′R″: R′とR″はFまたは飽和炭素のいずれか
「2011 年 1 月 1 日から 2023 年 11 月 13 日より前の最後の暦年の終わりまでのいずれかの期間に、§ 705_5 で特定された化学物質を商業目的で製造した者は、このパートの要件の対象となる。」(§ 705.12 に記載されている場合を除く)としており、幅広く義務を課しています。
 提案段階で、確認のために対象物質の構造定義物質を生産・輸入実績のあるTSCAインベントリ、少量免除(LVE)から抽出して当初は1,364物質、その後追加され
1,462物質リストを作成したものです。

 EPAに届出された物質から作成されましたので、副生成物質、研究開発物質、不純物などは網羅されていません。
 EPAは、対象物質リストを作成することで、誤って制限することを防ぐために、構造定義を使用するとしています。
 従って、報告および記録管理対象物質として、「1,462物質リスト」は必須ですが、未収載物質は必ずしも対象外ではありません。

1,462物質リストは、規則案(*11)の§705.5 「報告書の提出が必要な物質」に例示されています。
 
2.「11,409物質リスト」について
EPAは、EPAの研究者たちが物理化学的性質、環境中の運命と移行、ばく露、使用、生体内毒性、生体外生物試験などの利用可能な化学情報を統合し、Computational
Toxicology (CompTox)Chemicals Dashboardというオンラインツールで化学物質を評価しています。EPA Comptox Chemicals Dashboard(*12)には、約120万物質がデータベースに登録されています。
 当初、Comptox Chemicals Dashboardから、PFASの構造定義に該当する物質として、約12,000物質が抽出されました。その後も、抽出と適用対象が検討され、現在は当初の「12,000物質リスト」(PFASMaster List of PFAS Substances)は、新たな物質リストに改定されました。
 「12,000物質リスト」は、2023 年 12 月 6 日版では11,409物質が「PFAS|有害物質規制法のパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質の報告および記録管理要件: セクション 8(a)(7) 化学物質の規則リスト」(*13)として告示されています。明示的な構造を持たない PFAS 化学物質のリスト - ポリマーおよびその他の UVCB化学物質は、PFASDEV2 ( 2021 年 8 月 8 日)(*14)で1,258物質が告示されています。CompTox Chemicals Dashboardには、法規制等の対象物質リスト(*15)が整備されており、11,409物質リストも公開されています。今後はGenX(商品名)(パーフルオロオクタン酸(PFOA)を使用せずに高性能フルオロポリマー(付着防止コーティング)を製造するために用いられる技術製品などの加工助剤にも目が向けれます(*16)。11,409物質リストは確定ではなく、今後も改定されてCompTox ChemicalsDashboardで公開されると思います。

2.2 州法
 アメリカは州法で販売制限、届出や除外規定など独自のPFAS規制を行っています。共通的な対象は、子供向け製品、アパレル、アクセサリー、バッグ、寝具、室内装飾品、その他の家庭用繊維製品、化粧品、室内装飾品、家具、敷物、カーペット・料理道具・スキーワックス・防水処理などですが、規制は徐々に厳しくする傾向にあります。EPAは州の情報をWebページ(*17)で、21州について紹介しています。Webページはリンク先紹介で、更新も遅れ気味ですが、有用に思えます。

なお、飲料水中のPFASの定量は「固相抽出および液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析 (LC/MS/MS)(Method 537.1)(*18)によります。地下水などの非飲料水や廃水中のPFASの定量法もあります。

3.EUの動き
3.1 REACH規則の制限案
REACH規則の制限案で約10,000物質のPFASの制限の提案(*19)がされています。対象のパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFASs)は、少なく
とも1つの完全にフッ素化されたメチル(CF3-)またはメチレン(-CF2-)炭素原子(H/Cl/Br/Iが付加されていない)を含む任意の物質と定義しています。但し、以下の構造要素のみを含む物質は、提案された制限の範囲から除外されます。
CF3-XまたはX-CF2-X:X = -ORまたは-NRR'、X' = メチル(-CH3)、メチレン(-CH2-)、芳香族基、カルボニル基(-C(O)-)、-OR"、-SR"または?NR"R"'、R/R'/R"/R"'は、水素(-H)、メチル(-CH3)、メチレン(-CH2-)、芳香族基、またはカルボニル基(-C(O)-)です。
この定義は、附属書XIV報告書でOECDの2021年報告書「パーフルオロアルキル物質とポリフルオロアルキル物質の用語の調和:推奨事項と実践的なガイダンス」(*20)と一致しているとしています。
 アメリカもOECDの定義に合わせることを期待したいと思っています。

3.2フランス国内法
 2024年2月20日にASSEMBLEE NATIONALE(国民議会 下院)にPFASリスク保護法案(Proposition de loi visant a proteger la population des risques lies aux substances per- et polyfluoroalkylees)が付託(*21)されました。環境Codeを修正する法律案(*22)で、REACH規則の制限を国内法で具体化し強化する
内容です。

I. 次の食品と接触することを目的とした製品、化粧品、ワックス製品、およびテキスタイル製品の製造、輸入、輸出及び無償有償を問わず上市を禁止する。
1° 食品と接触することを目的とした、パーフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質を含むあらゆる製品
2° パーフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質を含むあらゆる化粧品
3° パーフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質を含むあらゆるワックス製品
4° パーフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質を含むあらゆるテキスタイル製品、ただし、保安及び民間安全専門家のための保護服を除く。
II.?2027年7月1日から、パーフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質を含むあらゆる製品の製造、輸入、輸出及び無償有償を問わず上市を禁止する。
この禁止に対する例外のリストは、使用の本質的な性質に厳密に比例して、国務院の布告によって定義する。
 EU調和法の規則について、加盟国がそれぞれの状況により国内法を制定するとなると、日本企業に大きな影響がでると思えます。

 PFASの骨格のC-F結合エネルギーは487 kJ/molで、C-H結合エネルギー 418kJ/mol、C-C結合エネルギー 366 kJ/molやC-Cl結合エネルギー 328 kJ/molより大き
く、C-F結合は分解がされ難く「永遠の物質(forever chemicals)」と言われています。
 ニュース番組で度々取り上げられる米軍基地の汚染は、在日米軍が以下の声明(*23)を発表しています。米国政府は、日本国内の全ての米海軍及び米海兵隊基地、本州の米陸軍基地、並びに三沢空軍基地において、旧式水成膜泡消火薬剤の交換と廃棄を完了し、旧式水成膜泡消火薬剤は、原料としてPFOS及びPFOAを含まない新式組成の水成膜泡消火薬剤と交換されました。
 
 PFASは消火剤や、洗浄剤、床用研磨剤、ラテックス塗料などの工業用途だけでなく、家庭用の繊維、室内装飾品、カーペット、皮革の処理に適用されるアフター
マーケット製品(アパレルや靴用の撥水スプレーなど)に添加されています。
 難分解性(forever chemicals)で特定用途だけでなく過去から多用されていますので、製造や使用が禁止されても、「非意図的」な混入管理が企業の課題となると思えます。

引用先
*1:検出状況
https://www.env.go.jp/content/000149091.pdf
*2:東京都の公表結果
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/gaikyoutougou3-4
*3:最終規則
https://www.epa.gov/system/files/documents/2024-04/pfas-npdwr_fact-sheet_general_4.9.24v1.pdf
*4:POPRC19
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/pressrelease_poprc19.pdf
*5:POPs事務局のサイト
https://treaties.un.org/Pages/CNs.aspx?cnTab=tab2&clang=_en
*6:国別の検索
https://chm.pops.int/Countries/StatusofRatifications/Amendmentstoannexes/tabid/3486/Default.aspx
*7:2006年の報告書
https://www.oecd.org/env/ehs/risk-management/PFC_FINAL-Web.pdf
*8:4500物質List Cancels & replaces the same document of 12 April 2006 https://one.oecd.org/document/env/jm/mono(2006)15/en/pdf
*9:推奨事項と実践的なガイダンス
https://one.oecd.org/document/ENV/CBC/MONO(2021)25/En/pdf
*10:分岐鎖フッ素化ポリマーとそのライフサイクルを理解するための合成レポート
https://www.oecd.org/chemicalsafety/portal-perfluorinated-chemicals/synthesis-report-on-understanding-side-chain-fluorinated-polymers-and-their-life-cycle.pdf
*11:規則案
https://www.federalregister.gov/documents/2021/06/28/2021-13180/tsca-section-8a7-reporting-and-recordkeeping-requirements-for-perfluoroalkyl-and-polyfluoroalkyl
*12:EPA Comptox Chemicals Dashboard
https://www.epa.gov/comptox-tools/comptox-chemicals-dashboard
*13:セクション 8(a)(7) 化学物質の規則リスト
https://comptox.epa.gov/dashboard/chemical-lists/PFAS8a7
*14:PFASDEV2
https://comptox.epa.gov/dashboard/chemical-lists/PFASDEV
*15:対象物質リスト
https://comptox.epa.gov/dashboard/chemical-lists
*16: GenX
https://www.epa.gov/chemical-research/human-health-toxicity-assessments-genx-chemicals
*17:EPA 州情報
https://www.epa.gov/pfas/us-state-resources-about-pfas
*18:Method 537.1
https://cfpub.epa.gov/si/si_public_file_download.cfm?p_download_id=539984&Lab=CESER
*19:REACH規則の制限案
https://echa.europa.eu/-/echa-publishes-pfas-restriction-proposal
https://echa.europa.eu/registry-of-restriction-intentions/-/dislist/details/0b0236e18663449b
*20:OECDの2021年報告書
https://echa.europa.eu/documents/10162/1c480180-ece9-1bdd-1eb8-0f3f8e7c0c49
*21:PFASリスク保護法案の付託
https://www.legifrance.gouv.fr/dossierlegislatif/JORFDOLE000049373243/
*22:法律案
https://www.assemblee-nationale.fr/dyn/opendata/PIONANR5L16B2229.html
*23:在日米軍の声明
https://www.usfj.mil/Media/Press-Releases/Article-View/Article/3430465/statement-on-aqueous-film-forming-foam-afff-replacement-at-us-installations/
情報提供 (一社)東京環境経営研究所
 

(2024年7月)

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