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欧州サーキュラーエコノミー政策を受けたエコデザイン規則(ESPR)について

1.はじめに:
 欧州では「新循環経済行動計画」*1に基づく、政策パッケージの中で製品側面の循環性向上の法的枠組みが議論され、「製品」については、エネルギー関連製品に適用してきた「エコデザイン指令:2009/125/EC」*2を改定する形で、2024年7月に、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(Eco design for Sustainable Products Regulation :ESPR)」(EU)2024/1781 *3が発効した。本規則は、「製品」自体の環境性能を向上させるとともに、デジタル製品パスポート(DPP)による情報開示や税関管理、消費者向け製品の廃棄禁止等が求められている。ここでは、ESPRの概要について説明する。

2.エコデザイン指令からの改定経緯:
ESPR制定の中では、「循環性」をキーワードに製品のライフサイクル全体を管理するため、原材料→部品製造→製品製造→販売→使用→廃棄→リサイクル/リユースといったライフサイクル全体を俯瞰し製品の環境側面と情報伝達を考慮するものとなった。また「製品」も、「EU市場に投入・使用される、全ての物理的な物品(2条)」と定義され、「金属素材」「化学品」といった産業資材も対象に含まれる。ESPR審議の過程で、消費者向け製品でもある「自動車」の取り扱いが、最後まで議論となったが、ELV指令改正議論が進んでいることから、ESPRの適用対象から外された。同様に、建築資材については、既に「(改定)建築資材規則」(EU)2024/3110*4 が、2024年に発効しており対象外となった。

3.ESPRの枠組みについて:
(1)ESPR適用の考え方と法規構成
製品の環境性能要件が製品毎で異なることから、具体的な性能要件を、委任細則で定める。このため順位をつけ、委任細則を検討することになった。
 ESPRの法規構成は、79条文・8附属書となっている。2~4章では、性能要件の考え方と情報伝達のツールとしてDPPの仕組みについて規定している。5章では要件制定の優先順位付けと策定手続きを定めている。6章では売れ残り製品の廃棄を禁止。7章ではバリューチェン事業者の法的義務について各々定めている。8章では、要件に対する「適合性評価・宣言」について規定され、9章では適合性評価・認定機関について定めている。

(2)ESPR適用製品と委任細則策定
 ESPRでは、法規対象「製品」を「EU市場に投入される、もしくは使用される、あらゆる物理的な物品(2条)」としたうえで「食品」「医薬品」等を対象外としている。委任細則検討の優先製品は、(a)鉄鋼 (b)アルミニウム (c)繊維製品(衣類、履物)(d)マットレスを含む家具 (e)タイヤ (f)洗剤 (g)塗料 (h)潤滑剤 (i)エネルギー機器 (k)情報通信製品その他電子製品であり、2月のエコデザインフォーラムで、優先品目と制定目標が示された。委任細則の検討は、関係者からなるエコデザインフォーラムで行われる。エコデザインフォーラムで、対象製品のエコデザイン要件を策定し、委員会に提案する。サブグループとして加盟国専門家で構成する加盟国専門家グループが組織される。

(3)売れ残り消費者向け製品の廃棄について
 ESPR 24条では、「売れ残り消費者向け製品の廃棄」が禁止され、2026年「衣類」「靴」から適用される(中小企業は2030年)。

(4)経済事業者の義務
7章では、バリューチェン全体の各経済事業者の義務が定められた。「製造事業者」と「輸入事業者」については、輸入事業者はEU市場への市場投入者と位置付けられ、製造事業者とほぼ同等な義務を有し「性能要件」「情報要件」「DPP」に加え、技術文書・適合性評価文書の保管、不具合発生時の是正措置等の対応が必要となる。

4.エコデザイン要件の概要:
 ESPRにおけるエコデザイン要件は、性能要件と情報要件となっている。共通要件である「水平エコデザイン要件」として「修理性」と「リサイクル性」が議論されるこ
とになった。情報要件には解体・リサイクルに関する要件が指定されている。
 製品の性能要件として20項目が示され、製品により選択される。各要件は「製品の長寿命化」「製品の循環性向上」「環境性能」に分類可能である「情報要件」は「懸念物質」に関する情報に加え、必要に応じて、「性能要件」、「保守・回収」、「解体・リサイクル」等の情報が含まれる。

5.デジタルプロダクトパスポート(DPP):
DPP導入の目的は、① 関係者が「製品情報」に容易にアクセスし理解 ② 管轄当局の適合性検証の容易化 ③ 製品トレーサビリティ向上 とされており委任細則が採択された製品では、DPP対応が必須要件となる。DPPについては、製品に記されたデータキャリアを通じ、製品固有識別子に接続し、ここから各種情報にアクセス可能となる。通関時に税関が、DPPデータが登録簿に記載されているか確認した上で、通関手続きを行う。製造事業者はDPPに上市前に情報インプットが必要となる。DPPに記載する情報について、測定・試験あるいは、サプライチェンを通じ入手するか、検討が必要である。

6.懸念物質:
 製品に含有する懸念物質について、情報要件として開示が必要となる。懸念物質は、① REACH規則*5のSVHC類 ② 特定のCLP規則*6対象物質 ③ 欧州POPs規則*7の収載物質 ④ 製品グループ毎の委任細則で定めたものである。懸念物質は、「製品のライフサイクル全体で追跡可能であること」とされ、(a)物質名(CAS番号等の物質コード)(b)製品中の存在位置 (c)製品、部品、スペア部品中の濃度 (d)安全な使用指針 (e)分解、再利用、リサイクルに関する情報 が求められる。CLP規則該当物質については、成形品を対象とした議論はこれまで限定的であり、注意が必要となる。

7. 適合性保証について:
 適合性保証に必要な「試験、測定、算出」方法は、規格に基づき委任細則に定められることが必要である。またこれらデータは認証機関、当局が検証できる必要がある。
 製造事業者は、製品に対し委任細則に規定したエコデザイン要件を満たしていることを自己宣言する必要がある。宣言には性能要件を示す関連規格や適合性を認定した認証機関、CEマークに関する情報が要求される。

8.最後に:
 ESPRについては、製品の個別委任細則議論が開始された時点ではあるが、各要件について、適合性を証明するデータを入手し、DPPを含む情報要件に対応するか検討が必要となる。特にサプライチェンを通じてデータを入手する、「懸念物質」「カーボンフットプリント」「マテリアルフットプリント」等にはサプライチェンでの収集等の準備が必要と思われる。
(本稿は「環境管理誌5月号」記事の要約である)

参考文献
*1 「新循環経済行動計」
https://environment.ec.europa.eu/strategy/circular-economy-action-plan_en 
*2 エコデザイン指令:2009/125/EC
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2009/125/oj/eng
*3 持続可能な製品のためのエコデザイン規則(Eco design for Sustainable Products Regulation :ESPR)(EU)2024/1781
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1781/oj/eng
*4 建築材料規則(harmonized rules for the marketing of construction products and repealing Regulation:CPR)
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/3110/oj/eng
*5 REACH規則 Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals 1907/2006(EC) https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2006/1907/oj/eng
*6 CLP規則 Regulation on the classification, labelling and packaging of substances and mixtures (EC)1272/2008 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2008/1272/oj/eng
*7 POPs規則 2019/1021(EU)
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2019/1021/oj/eng 
 

(2025年5月)
 

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