
BRICS ~ブラジルとインドの規制動向~
【1.BRICS ~ブラジルとインドの規制動向~ その1】
1.BRICSとは
BRICS(ブリックス)は、新興国経済の連携を目的とした政府間組織です。組織名のBRICSは、当初の加盟国であるBrazil(ブラジル)、Russia(ロシア)、India(インド)、China(中国)の 5か国の頭文字から取られています。ゴールドマン・サックスのエコノミストが2001年のレポートで提唱した「BRIC」の概念がもとになっています。 2011年に南アフリカが加わり、名称が「BRICS」となりました。組織の目的は、経済的影響力の強化でBRICS諸国は、広大な国土と多くの人口、豊富な天然資源を背景に、グローバル経済における発言力の強化を目指しています。脱ドル化: ドルに依存した世界経済システムからの脱却を目指すという、反覇権的な側面も持っています。2014年:世界銀行やIMFに対抗するため、独自の「新開発銀行(NDB)」を設立しました。近年、BRICSは複数の国が正式加盟したことで拡大し、影響力を増しています。2024年: エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア2025年: インドネシアこれらの国々が加わったことで、世界の人口の約49%、世界のGDPの約39%を占める巨
大な経済圏となっています。世界の名目GDPに占めるアメリカの比率は、2024年時点で約25%です。BRICSの個々の加盟国のGDPは少なく、アメリカは単一の国としては依然として世界最大級の経済規模を誇ります。
2.日本企業の注目する国
日本企業は新たな市場としてBRICSに注目が集まっているようです。進出を検討する国の順番は、市場の魅力度、成長性、地政学的リスクなどの要素によって変動しますが次の傾向のようです。
(1)注目度が高い国
(i)インド
・市場の魅力: 巨大な人口と中間層の拡大により、消費市場としての成長期待が非常に高い国です。
・政治的安定性: 民主主義国であり、ビジネス環境の改善が進んでいる点が評価されています。
・多様な産業: 製造業からIT、サービス業まで、幅広い分野での進出機会があります。
(ii)インドネシア
・ASEAN最大: 東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の人口を抱える国であり、市場としての潜在力が大きい国です。
・BRICS加盟: 2025年1月のBRICS正式加盟により、今後の経済協力や市場開放がさらに進む可能性があります。
・内需志向: ベトナムが製造・輸出拠点として注目される一方、インドネシアは巨大な内需市場として多くの日本企業が注目しています。
(2)継続的な取り組みが見られる国
(i)中国
・巨大市場: 依然として世界最大の市場の一つであり、多くの日本企業が長年進出しています。
・経済活動の回復: パンデミック後の経済活動の早期再開も注目されました。競争激化とリスク: EV市場での中国メーカーの台頭や、地政学的なリスク、労働コストの上昇といった課題も抱えています。
(3)今後の動向に注目が集まる国
(i)ブラジル
・資源と市場: 豊富な資源と南米最大の市場を持つ国として、日系自動車メーカーや鉄鋼メーカーの進出が活発です。
・BRICS内連携: BRICSの拡大により、南米地域における連携強化が期待されます。
(ii)アラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビア
・エネルギーと金融: 新たな加盟国であり、豊富なエネルギー資源と国際金融拠点としての地位が注目されています。
・ビジネス環境: ドバイやリヤドのような都市では、グローバルなビジネスインフラが整っています。
(4)注意が必要な国
(i)ロシア
ウクライナ侵攻後の経済制裁や政治的リスクにより、日本企業にとっては進出・事業継続のリスクが非常に高い状況が続いています。
(ii)イラン、エチオピア、エジプト、南アフリカ
これらの国々も潜在的な魅力はあるものの、政情不安や経済的な不確実性など、国ごとのリスク要因を慎重に分析する必要があります。
中国は、長年進出している国で、情報も集まっています。最近はブラジルとインドのお問い合わせが多くなってきています。両国とも言語や日本と異なる法体系などで法規制情報が集まり難いようです。
ブラジルとインドの気になる法規制の動向を解説します。
3.ブラジル
(1)環境政策
ブラジルの環境政策は、豊かな自然環境と生物多様性を保護し、持続可能な開発を促進することを目的としています。特に、アマゾン熱帯雨林やパンタナール湿地帯などの広大な自然地域を抱えるため、これらの生態系の保全が重要な柱となっています。
主な特徴は以下の通りです。
①森林保護への強い意識と目標
世界最大の熱帯雨林であるアマゾンを擁するブラジルは、森林破壊の防止と回復を環境政策の最重要課題の一つとしています。
②生物多様性の保全
アマゾンやパンタナールといった広大な地域には多様な動植物が生息しており、絶滅危惧種の保全を含む生物多様性の保護は、地球規模の生態系バランス維持に極めて重要です。
③持続可能な農業・畜産の推進
ブラジルは世界有数の農業国であり、有機農産物や持続可能な農産物の生産が増加しています。サステナブルな森林管理に基づいて生産された木材製品の利用も促進されています。しかし、大豆生産や肉牛の飼育牧場のための土地転換による森林破壊や水・土壌汚染が大きな課題となっています。
④先住民の権利保障とコミュニティとの連携
アマゾン地域に住む先住民の権利保障は、環境保護の重要な側面と認識されています。
この内容は、2023年8月にブラジルのベレンで開催された第4回アマゾン協力条約機構(ACTO)首脳会議で採択された「ベレン宣言」のアマゾンが直面する課題に対応するための国際協力が背景にあります。この宣言が採択された背景には、アマゾン熱帯雨林の森林破壊や気候変動の影響が深
刻化しているという危機感があります。一部の試算では、このままでは2050年頃にはアマゾンの森林システムや生態系に大きな危機が到来するとも言われています。ベレン宣言は、アマゾンが「回帰不能点」に達するのを防ぐために、各国が協力して対策を講じる枠組みを作ることを目指しています。ACTOは、GCC(湾岸協力会議)、BRICSやユーラシア経済連合(EAEU)のような関税同盟的な活動は行っていません。ACTOは、共通の関税政策、農業政策、エネルギー政策などを追求し、より深い経済統合を目指しています。EUに似た経済統合のモデルです。EUの環境政策、特に「欧州グリーンディール」は、経済成長と環境保護を統合し、循環型経済、脱炭素化、生物多様性保全といった包括的なアプローチを重視しています。ACTOも、アマゾン地域の環境保護(森林破壊防止、生物多様性保全)と、持続可能な農業・畜産、先住民の権利保障といった地域経済・社会の持続可能性を統合しようとしています。この「環境と開発の両立」という視点は、EUのグリーンディールに通じるものがあります。
(2)メルコスール (Mercosur)
メルコスール(南米南部共同市場)は、南米で最も影響力のある経済統合体で、 域内での関税撤廃や共通対外関税の設定、生産要素の自由な移動を目指す共同市場の形成を目的としています。加盟国は、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ (現在、加盟資格を停止中)です。メルコスールは、 域内貿易の自由化と、共通対外関税(CET)を持つ関税同盟として機能しています。ブラジルはメルコスールの中心的な経済大国であり、その影響はブラジルの経済規模と産業構造によって大きく左右されます。
(3)気候変動枠組条約締約会議(COP)
2025年11月にブラジルのベレンで開催されるCOP30は、ブラジルの環境政策に大きな影響を与える可能性が高く、その方向性を強化・加速させると予想されますが、劇的な「変化」というよりは、現行のルーラ政権の環境政策を国際的にアピールし、さらに深化させる機会と捉えると思えます。
COP30がブラジルに与える影響は以下と思えます。
①ルーラ政権の環境政策の強化と国際的リーダーシップの発揮
・環境重視への回帰
・森林破壊ゼロ目標の推進
②アマゾンの役割の強調と具体的成果の提示
・アマゾン玄関口での開催
・先住民の知見の活用
③気候資金や国際協力の獲得への期待
・資金メカニズムの議論
・「損害と損失」基金の運用
④国内政策への影響
・国内法の整備と実施
・環境教育の強化
懸念事項や課題もあります。
①政権の安定性: 環境政策は、政権の政治的安定性や国内の経済状況に左右されやすい側面があります。ルーラ政権の支持率や経済状況の変化が、政策の実施に影響を与える可能性は常にあります。
②農業・畜産セクターとの調整: 広大な農業・畜産セクターを持つブラジルでは、環境保護と経済活動のバランスをいかに取るかが常に大きな課題です。COP30開催によって、これらのセクターからの圧力が強まる可能性も否定できません。
③国際社会の期待値: COP30の開催国として、ブラジルには国際社会から高い期待が寄せられます。その期待に応えられるだけの具体的な成果と、野心的な公約を示すことができるかが試されます。2025年のCOP30は、ブラジルがこれまでの環境政策の方向性を維持しつつ、その実行
力を高め、国際社会におけるリーダーシップを強化するための重要な契機となると思えます。COP30は、EUにも大きな影響を与えます。アメリカの国際協調からの後退を受けて、EUは気候変動対策における世界の「アンカー(碇)」としての役割を強固にすると思います。これは、パリ協定の精神と目標を維持し、国際的なモメンタムを失わせないための重要な役割です。「欧州グリーンディール」は堅持され、2050年カーボンニュートラル目標達成に向けた取り組みはさらに加速すると考えられます。
(4)気になる規制法
①ブラジルREACH
ブラジルREACHともいわれる2024 年 11 月 13 日法律第 15,022 (*1)が2024年11月14日に発行されました。気になる条項は以下です。第6条 化学物質自体、または混合物の成分として使用される場合、過去3年間の平均を考慮し、個別に年間1トン以上の製造または輸入量に達する化学物質は、化学物質国家登録簿に登録しなければならない。
§ 第1項 化学物質審議委員会は、特定の化学物質について、製造業者および輸入業者が化学物 質国家登録簿に情報を提供する量を本条で規定する量より少なく定めることができる。
§ 第2項 組成が不明または変動する化学物質(UVCB)は、単一の化学物質として登録しなければならない。
第7条 化学物質国家登録簿への化学物質の登録は、規則に従い、以下の情報を含まなければならない:
I - 化学物質の製造者または輸入者の識別データ;
II - 化学物質の年間生産量または輸入量の範囲;
III - 化学物質の正確な識別情報
IV - 化学品の分類および表示にGHSによる危険有害性の分類;
V - 化学物質の推奨用途
第42条:公布から180日以内に規制を行わなければならない。
第43条:公的機関は、化学物質国家インベントリの実施に必要なコンピュータシステムを開発または適合させるために、本法の公布後最長3年の期間を有する。 登録は2027年11月から、
第10条 新規物質は情報が入手可能になった日から3年、既存物質は翌年3月末
②ブラジルのGHS規制(ABNT NBR 14725:2023)
ABNT NBR 14725:2023(健康、安全、環境に関する情報―化学品の分類および表示に関する世界調和システム)は、国連GHSの改訂第7版によるABNT(ブラジル技術規格協会)が、2023年7月3日 に発行したGHS分類、SDSおよびラベリングに関する改定国内規格です。発効は、2025年7月4日です。ABNT NBR 14725:2023は、2024年2月28日に字句修正版です。ブラジルは準備を進めているようですが、現時点では有害化学物質の「Inventory」システムは運用されていることは確認できていません。税関での輸入手続きでの有害性分類、表示は、農薬に限らず一般化学品もABNT NBR14725:2023(*2)になります。
また、現地工場では、労働法(Decree-Law No. 5,452 of May 1, 1943)(*3)が適用されますが、その後の改定法(LAW NO. 6,514, OF DECEMBER 22, 1977.)(*4)の第189条で次の要求があります。
セクションXIII不健康または危険な活動
第189条 不健康な活動または業務とは、その性質、労働条件または方法によって、従業員を、その薬剤の性質および強度、ならびにその影響にさらされる時間により設定された許容限度を超えて、健康に有害な薬剤にさらす活動をいう。
すべての規制法を確認してはいませんが、2025年7月4日以降は、SDS及びラベル表示は、ABNT NBR 14725:2023になります。
③ proposta que restringe uso de substancias perigosas em produtos
eletroeletronicos(ブラジル RoHS 案)
ブラジルには、家電製品における有害物質の適用を規制する特定の基準がありません。規制の欠如は、このような機器の製造工程、リサイクル・廃棄で働く人々の製品を使用するだけでなく、負の環境に影響を与える消費者の健康を危険にさらす可能性があります。
2025年3月3日に国家化学安全委員会( CONASQ)(*5)が、電子機器製品における危険物質の使用を制限する提案を承認しましたが、規制法の公布待ちです。
目標は、ブラジルを国際的な化学物質安全のベストプラクティスに合わせることで、EU RoHS指令と同じ10物質を制限するものです。
④ノックダウン部品を輸入する場合の法規制
(i)輸入規制と手続き
輸出入業者登録(RADAR): ブラジルで輸入を行う企業は、事前に外国貿易統合システム(SISCOMEX)を通じてRADAR(Registro e Rastreamento da Atuacao dos Intervenientes Aduaneiros)と呼ばれる輸出入業者登録を行う必要があります。輸入許可・ライセンス(LI): 多くの製品は、輸出入自由品目に分類されますが、特定の品目やリスクのある製品(医薬品、食品、自動車部品の一部など)製品は「非自動輸入ライセンス(Licenca de Importacao Nao Automatica)」の取得が必要です。ノックダウン部品に含まれる特定の部品が対象となる可能性があります。NCM(共同命名法)コードによって、管轄する関係官庁が設定されています。
(ii)品質基準と認証
INMETRO認証:電気製品、玩具、そして自動車部品の一部は、ブラジル国家度量衡・規格・工業品質院(INMETRO)INMETRO認証の取得が義務付けられています。ノックダウン部品に含まれる個々の部品がINMETRO強制認証の対象となる可能性が高いため、事前に確認し、認定ラボでの試験と評価、およびINMETROマークの取得が必要です。環境基準: 自動車部品に関しては、ブラジルの環境規制や排出ガス基準への適合も重要です。最終製品がこれらの基準を満たすために、供給されるKD部品も関連する基準を満たす必要があります。
(iii) 産業政策と国産化の促進
外資誘致と優遇措置: ブラジル政府は、特定産業(自動車および自動車部品、情報通信関連など)や地域(マナウス・フリーゾーンなど)への投資を奨励しており、法人税の減免、輸入税・IPI・PIS/COFINSの免除/保留などの優遇措置を提供している場合があります。
引用先
*1:ブラジルREACH
https://www.planalto.gov.br/ccivil_03/_ato2023-2026/2024/lei/L15022.htm
*2:ABNT NBR 14725:2023
https://www.jetro.go.jp/world/cs_america/br/trade_05.html
*3:労働法
https://www.planalto.gov.br/ccivil_03/Decreto-Lei/Del5452.htm
*4:LAW NO. 6,514, OF DECEMBER 22, 1977
https://www.planalto.gov.br/ccivil_03/leis/l6514.htm
*5:国家化学安全委員会( CONASQ)
(一社)東京環境経営研究所 松浦 徹也
(2025年11月)