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米国におけるPFAS規制の現状

 

1.米国におけるPFAS規制の現状:
 米国では、焦げ付き防止処理調理器具からのPFAS放出や、PFAS製造・使用事業所からの環境汚染が問題とされてきました。飲料水汚染については、ガンのリスク増大や消化器疾患等の報告もあり、一部のPFAS事業者は、巨額の和解金の支払いとともにPFAS関連事業からの撤退を表明する企業もでてきている(*1)。
 米国の法規は、連邦法と州法にわかれており、化学物質に関する連邦法は、「有害物質規制法」(TSCA:Toxic Substances Control Act)であり各州は、独自に州法を定めている。TSCAでは、製品含有PFAS類の報告義務とともに、TRI(Toxic release inventory)として特定の物質に関し、製造・購入量及び環境への排出量の報告が定められている。水質基準、大気基準、土壌汚染管理等は。大気浄化法等の関係する連邦法で定められている。一方、メイン州をはじめとする、いくつかの州では、特定PFAS含有製品の製造販売禁止、PFAS含有製品の情報提供を求める州法が成立している。ここではトランプ政権に発足後のEPAのPFAS対応について概説する。

2.PFAS戦略ロードマップ:
 米国EPAは、2021年10月18日に「PFAS戦略ロードマップ(*2)」を公表。ここでは「科学的研究」「制限方法」「汚染修復」の3項目からのPFAS取り組み戦略とEPA内の担当組織の役割を示している。研究に関するテーマでは、「有害性や暴露経路に関する科学的知見」「PFASの回収、分解技術の開発」「汚染地域の実態把握」。制限方法としては「汚染を最小化にする法的手段検討」「汚染責任の賦課」「PFAS排出プログラム」。汚染修復として「法的対応の進め方」「汚染当事者への責任賦課」「被害者救済」「捕集分解技術の普及」などがあげられている。しかしながら現在進められている、研究開発局(ORD:Office of Research and Development)がより小規模な応用科学・環境ソリューション局(OASES:Office of Applied Science and Environmental Solution)等のEPA組織見直しに伴い修正されることが予想される。

3.ゼルディン長官が示した、「EPAの主要な行動」(*3):
2025年4月28日に、ゼルディン長官は、「私は長年、PFASと?近な場所でPFAS汚染に苦しむ州や地域社会を支援する取り組みについて懸?を抱いてきました。本日の発表により、私たちは EPA のすべてのプログラムオフィイスが PFAS対策に取り組み、研究と検査を推進し、PFASが飲料水システムへ入り込むこと防ぎ、汚染者の責任を追及し、受動的な立場である人々に確かな政策を提供します。これは、アメリカ人が最もきれいな空気、土地、水を確保できるようにするために、PFASに関して私たちが行う取り組みの始まりにすぎません」と述べたうえで以下の行動計画を示した。これ
は、長官が2月4日に示した、EPAの「アメリカの偉大な復活を後押しする」イニアシチブ(*4)の、「ピラー1:すべてのアメリカ人のためのきれいな空気、土地、?」と「ピラー3:許可制度改革、協調的連邦主義、省庁間パートナーシップ」を反映したものと位置づけられている。

(1)科学的知見の強化:
・PFASに関する取り組みをより適切に調整し管理するために、PFASに関するプログラムを統括する機関(省庁)を任命
・PFAS評価戦略を導入し、有害物質規制法セクション4に基づくPFASの危険有害性や暴露経路に関する科学的情報の収集
・大気中のPFASに関する、更なる科学的情報の収集と、放出PFASの測定技術の開発
・全てのPFASを測定・管理できない場合、利用可能な情報のギャップを特定し対処
・処理技術を評価し、PFAS破壊および廃棄ガイダンス更新を3年から毎年と短縮
・PFASの検出を改善する分析法とPFASに対処する戦略の強化
(2)法的義務の履行とコミュニケーションの強化:
・PFAS製造業者および金属仕上げ業者向けの排出制限ガイドライン(ELG)を策定するとともに、PFAS排出量の削減に必要なその他業界向けのELGを評価
・特定のPFASに関する飲料水規制に関連するコンプライアンス上の課題と要求に対処
・PFAS製造者と使用者からの、排出に対し資源保護回復法(RCRA:Resource Conservation and Recovery Act)による対応を決定
・2020年国防権限法に基づく議会指示に従い、PFASを毒性物質排出目録(TRI)に追加
・更なる汚染を防ぐために、PFAS使用と放出に関し水質浄化法とTSCAの制限を施行
・安全飲料水法(SDWA:Safe Drinking Water Act)によりリスク評価のうえ対処
・新規/既存PFASのリスク評価を優先し、より効果的成果の達成
・連邦議会の構想及びTSCAに準拠し中小企業や輸入業者に過度な負担をかけない形で必要な情報を収集するために、セクション8(a)7 (PFAS含有通知)を実施
・議会や業界と協力し、汚染者負担の原則による一般受益者を保護する責任枠組みの構築
(3)パートナーシップの構築:
・PFAS汚染により飲料水供給に影響を受けている地域での修復と浄化取り組み推進
・各州と協力しPFAS汚染リスクを評価し、分析及びリスク評価ツール開発
・下水処理等で生成するバイオソリッド(下水汚泥)に対する、PFAS汚染リスクを評価し施策を決定
・州や部族の法規執?活動を支援
・PFAS大気放出に関し州の請願を評価検討
・汚染者の責任追及のために、違反行為の調査等に資金と技術支援

ゼルディン長官は、連邦議会議員時代に議会のPFASタスクフォース創設に関わり、特に飲料水のPFAS汚染対応を推進してきている。(ゼルディン長官は、ニューヨーク州選出の上院議員(2011-14)、下院議員(2015-23)を務める)

4.飲料水中のPFAS類基準:
 米国の水道水基準は、連邦と州によって制定された法律で管理されています。そのなかで、安全飲料水法(SDWA)は、1974年に制定され、EPAに飲料水供給に関する規制を作成および推進する権限を与えています。
 PFASについては、EPAが国家飲料水基準(NPDWR:National Primary Drinking Water Regulation)を2024年4月10日に公布しました(*5)。国家飲料水基準では、PFASについて6項目の基準が規定されました。PFOA、PFOSについては、最大含有量が4.0ppt(ng/L)とされ最終目標では、「0ppt(ng/L)」とされました。この他、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)、PFNA(ペルフルオロノナン酸)、HFPO-DA(商品名:Gen-X)の3物質は、最大含有量が10ppt(ng/L)とされ、PFHxS、PFNA、HFPO-DA、PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)を2種以上含む混合物
は、ハザードインデックスとして1.0が定められた。これら基準値は、2029年以降緩和措置なく適用されることとされました。EPAは、2025年5月14日に、PFOA、とPFOSの基準値は維持し発効を2031年に遅らせることと他の4物質については、基準案を見直しを公表しました(*6)。プレスリリースの中で、EPAは猶予期間を延長することで、小規模な上水道システムを含めて基準に合致するための規制の柔軟性を考慮するとともに、他の4物質については、再考するとしています。

5.TSCAにおけるPFAS報告義務:
 TSCAに関する連邦規則40CFR Part 705(2023年9月28日公布)(*7)に「PFAS類及びポリフロロアルキル物質に関する報告と記録保持義務」があり、TSCA 8(a)(7)規定と呼ばれている。本規定では、「2011年以降にPFASを含む製品(物質、調剤、成形品)を製造、輸入事業者は、製品中に含まれるPFASの物質情報、含有生産量、用途、廃棄量、健康・環境影響に関する情報を報告したデータ、文書は5年間の保管義務」を求めるものです。情報については、提出者が「既知または合理的に確認できる(Known to or reasonably ascertainable)」情報をサプライチェーンの中で収集
し、報告するとされている。EPA側の報告回収システム開発の遅れから、報告期間が見直され、現在は2026年4月13日~10月13日とされています。ゼルディン長官は、4月28日の発表で、「必要な情報を中小企業や輸入業者に過度な負担をかけない形で必要な情報を収集する」としており、進め方の見直しが行われると思われる。

6.最後に:
 米国におけるPFAS議論は、連邦と州の異なるレベルで行われており、一部の州は、「製品規制、含有報告、製品へのラベル表示等」の法的枠組みを進めている。現地製造もしくは輸出した製品が、米国内を流通する以上、企業の対応は最も厳しい法規への対応が必要となるので法規動向に注意が必要な状況が続いています。

(引用資料)
(*1)・3M、2025年までにPFAS製造から撤退(3Mジャパン:2022年12月28日)
https://multimedia.3m.com/mws/media/2266376O/news-release-20221228.pdf
(*2)・米国EPAのPFASに関する戦略ロードマップ(2021年10月18日公表)
https://www.epa.gov/pfas/pfas-strategic-roadmap-epas-commitments-action-2021-2024
 
(*3)・ゼルディン長官のPFAS汚染に対する行動(2025年4月28日プレスリリース)
https://www.epa.gov/newsreleases/administrator-zeldin-announces-major-epa-actions-combat-pfas-contamination
(*4)・「偉大なるアメリカ復活」イニアシブ公表(2025年2月4日リリース)
https://www.epa.gov/newsreleases/epa-administrator-lee-zeldin-announces-epas-powering-great-american-comeback
 
(*5)・PFASのNPDWR解説
https://www.epa.gov/sdwa/and-polyfluoroalkyl-substances-pfas
(*6)・EPAがPFOA,PFOSの基準値を維持(2025年5月14日プレスリリース)
https://www.epa.gov/newsreleases/epa-announces-it-will-keep-maximum-contaminant-levels-pfoa-pfos
(*7)・TSCA section 8(a)(7) Reporting and Recordkeeping Requirements for PFAS https://www.epa.gov/assessing-and-managing-chemicals-under-tsca/tsca-section-8a7-reporting-and-recordkeeping
 

(2025年10月)

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