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連載:物質の測り方シリーズ

【物質の測り方シリーズ(その1)】
分析の専門家T先生からいただいた寄稿を、4回にわたってお送りします。お楽しみく
ださい。

物質の測り方シリーズ目次
(1) 分析に用いられる用語(10月号掲載)
(2) 分析機関の選びかた(11月号掲載予定)
(3) 分析機関との打ち合わせで重要なこと(12月号掲載予定)
(4) 予期しない結果が出た時の対処方法(1月号掲載予定)
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(1) 分析に用いられる用語
化学物質管理では、製品に含まれる有害物質の量を把握することは重要です。そのため分析は有効な手段になります。しかし、何でもかんでも分析すればいいというわけではなく、製品含有化学物質のリスクによって分析の頻度、レベルなどを考慮する必要があります。
このシリーズでは、分析の基礎から、分析機関の利用の仕方、分析結果の読み方、トラブルの対処方法、顧客との調整方法などをお話しします。
今回は、分析に用いられる用語を解説します。顧客や分析機関との打ち合わせに出てくる用語の意味をよく理解してください。

〇IEC62321
RoHS指令の規制対象である6物質の分析法についての国際規格で、試料前処理のフローや各特定有害物質の分析方法が規定されています。基本的に分析を依頼するときは、この方法を指定することになりますが、分析試料によっては、このままではうまく分析できないものもあるので、分析機関との打合せが必要です。

〇ISO17025
ISO17025は、試験機関が実施する試験の品質を保証する制度で、権威ある第三者が認定しています。この認定試験所であれば、国際的にも信頼されています。試験機関を選ぶ場合は、まずこの認定を受けているかがカギになります。ただし、ISO17025は試験法ごとに認定されるものであり、試験機関によってはRoHSとは全く関係のない試験についての認定しか持っていないところもあるので注意してください。

〇蛍光X線分析法
蛍光X線分析法は、試料にX線を照射し、このとき試料から放出される照射したX線とはエネルギーの異なるX線(蛍光X線)を測定するものです。蛍光X線は元素ごとに異なるので、この測定を行うと、試料に含まれている、鉛、カドミウム、クロム、臭素などが検出できます。非破壊検査で簡単に測定できるのですが、この測定で検出できるのは元素であって化合物ではありません。六価クロムはクロムとして検出されるので6価クロメートと3価クロメートを区別できません。臭素系難燃剤は臭素として検出されるので、本当に臭素系難燃剤が含有しているのかまではわかりません。また、RoHSに新しく追加されたフタル酸エステル類はプラスチックや他の有機物と区別できないため蛍光X線分析法では測定できません。

〇前処理
 様々な形状の試料を分析するために、試料を板状にする、溶かして溶液にする、など分析方法に応じて分析できる形状・形態にすることです。正確な分析を行うためには、試料が何でできているかを知り、その性状に適した前処理方法を選択することは重要です。分析機関がなんでも知っているわけではないので、お任せでは調査や検討に時間がかかって、試験コストにもはねかえります。適切な前処理を行うために、試料情報を開示して、打ち合わせることが重要です。

〇検出限界(LOD)、定量下限(LOQ)、閾値
 検出限界は測定機器で信号として認めることができる最小の量、定量下限は定量結果が十分な信頼性を有する最小量です。また、閾値とは製品中に含有が認められる限界値のことです。分析機器の性能が向上して、ICP-MSやGC-MSを使うと定量下限がppb(10e-9、10億分の1)やppt(10e-12、1兆分の1)といったレベルの分析が可能ですが、RoHSの閾値は100 ppm~1000 ppmであり、閾値の100万分の1まで測定する必要はどこにもありません。分析を依頼するときは、閾値を示して、適切な定量下限を設定してください。

 

【物質の測り方シリーズ(その2)】

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物質の測り方シリーズ(2) 分析機関の選び方
納入先企業からの要求等で、どうしても自社製品の分析をしなくてはならなくなったとき、どのようにして分析機関を選んだらいいのでしょうか?
インターネットで検索すると、RoHSやREACH分析ができる分析機関は多くヒットします、分析費用も数倍の差があります。調達側からすれば、安いにこしたことはないのですが、安くても信頼性のない結果をもらって、そのことが問題になったときは大きな被害が発生します。信頼できる分析機関を選ぶチェックリストは以下のようなものです。
(1) ISO17025認定試験所かどうか ISO17025は国際的にも通用する認定制度なので、最低限この認定は必要です。また、認定されている試験法がRoHS規制物質のものかは確かめる必要があります。目的以外の試験が認定されていても意味がありません。
(2) 試験を実施するのに十分な人員が確保されているか 体制図を提示してもらい、必要な人員が配置されていることを確認します。
(3) 担当者の経験年数、教育訓練の方法、教育訓練記録はあるか。また、力量はどのように把握しているか(技能認定試験など)。
(4) 必要な設備、機器を所有しているか 前処理に必要な施設、設備(マイクロ波加熱分解、酸分解、乾式灰化、溶媒抽出、アルカリ分解)、分析に必要な機器(蛍光X線分析装置、分光光度計、ICP-OES、ICP-MS、AAS、CV-AAS、GC-MS)、またこれらの機器の定期点検、校正、精度管理の手順書はあるか。
(5) 国家標準にトレーサブルな標準液、標準物質を使っているか。標準液の調整方法は妥当か、有効期限は定められているか、使用記録はあるか。
(6) IEC62321に従った分析ができるか IEC62321の最新版を持っていて、日本語に訳して、自社の標準操作手順書(SOP)に盛り込んでいるかがポイントになります。
(7) 依頼予定の試料の分析経験があるか、分析フローを開示できるか。IEC62321には、すべての試料についての分析方法が詳細に書かれているわけではありません。依頼予定の試料物理化学的性状に応じて最適な前処理方法を選択する必要があります。これは、分析機関の能力によるものが大きく、十分に見極める必要があります。
(8) 依頼した試料がIEC62321に示された方法では分析ができないため、新たな方法を採用した場合、その方法の妥当性確認はどのように行っているか(不確かさ、検出限界、方法の選択性、直線性、繰返し再現性、頑健性、マトリックスの干渉など)。
(9) 依頼した試料の、前処理記録、分析チャート、同時に実施した標準物質の分析チャート、その他生データ、機器の校正記録等を提出(開示)してもらえるか。これらのデータを開示できないような試験機関は信頼できないと判断されます。
(10) 分析は自社内で実施しているのか、外部で行っているのか。外部で行っている場合はどのような審査プログラムがあるのか、窓口担当者は対応できる能力があるのか。分析機関によっては、窓口だけ行い、分析は安価な外部機関に外注しているところもあります。窓口担当者に管理能力がない場合、顧客の要求が外注先に伝わらず、品質の悪い結果を返される場合があります。
(11) データ処理ワークシートはあるか、そのチェック体制は妥当か。コンピュータを用いている場合は、そのソフトウェアはバリデーションされているか、バージョン管理は適切か。
(12) 信頼性保証部門(担当者)は設けているか。担当者の経験年数、教育訓練記録はあるか。
(13) 内部精度管理を行っているか(内容、頻度等)、外部精度管理は行っているか(クロスチェック、技能認定等)。
(14) 予期せぬ結果が出た時の対処方法はどのようになっているか。

以上のような項目についてチェックリストを作り、分析を依頼しようとしている分析機関の選定を行うと、分析機関の能力が見えてきます。もちろん、すべての項目が完璧に満たしているとは限りません。分析費用も調達要因になりますので、分析機関を点数付して、問題になることが少ない(リスクの低い)分析については、点数は低いけれど安価な分析機関を使う、リスクの高い分析、問題が生じたとき迅速に対応する必要がある分析については、値段は高くても能力のある分析機関に依頼するといった使い分けが必要です。

 

【物質の測り方シリーズ(その3)】

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物質の測り方シリーズ(3)  分析機関との打ち合わせで重要なこと
さて、自社製品の分析を分析機関に依頼するときに注意する点がいくつかあります。まず、何のために分析するのか、どこまで分析しなければいけないのかということです。
RoHS指令の閾値(最大許容濃度)は以下のように定められています。
 (1) カドミウム:0.01%
 (2) 鉛    :0.1%
 (3) 水銀:0.1%
 (4) 6価クロム:0.1%
 (5) Polybrominated biphenyls(PBB):0.1%
 (6) Polybrominated diphenyl ethers(PBDE):0.1%
 (7) Bis(2-ethylhexyl)phthalate(DEHP):0.1%
 (8) Butyl benzyl phthalate(BBP):0.1%
 (9) Dibutyl phthalate(DBP):0.1%
 (10) Diisobutyl phthalate(DIBP):0.1%
 (1)~(6)については、蛍光X線分析法によるスクリーニングが可能です。スクリーニングで検出されなかったときは、その結果を添付して「非含有」として報告します。検出された場合は、精密化学分析を実施することになり、分析料金も高価になります。精密化学分析の結果、不検出であれば「非含有」で報告できますが、閾値を超えて含有していることがわかったら、その製品は出荷できなくなり、原因究明が必要になります。
 信頼できる分析機関は分析のプロであり、間違った結果を報告することは少ないのですが、試料によっては分析が困難なものもあり、結果の不確かさが大きくなります。正確な分析結果を得るために、事前に分析機関と打ち合わせることは非常に重要なことです。
(1)何のために分析するのか、どこまで分析するのかを伝える RoHS指令の特定有害物質の分析で、閾値が**%である。REACH規則のSVHCである**が、製品中**%以下であることを証明したいなど。                                        (2) 定量下限を示す 最近は、分析機器の感度が向上し、たとえば製品中の特定有害物質が0.00000001%のオーダーで分析することも可能です。定量下限の打合せをしないと、分析機関は分析機器の性能の限界までの高感度分析を行い、「検出された」と報告してきます。しかし、閾値が0.1%なのに、その100万分の1の濃度まで定量して、値を出す意味はありません。分析費用も高くなります。定量下限は、せいぜい閾値の10分の1程度で十分で、結果は「不検出(定量下限値0.01%)」と示せばかまいません。
(3) 分析方法を示す 基本的にはIEC62321に示された試験方法を指定します。何らかの理由で、試験法を変更(一部または全部)する場合は、どこを変更するのか、変更した部分の妥当性はどのように確認しているかの説明を求めてください。
(4) 自社製品の組成、成分表を開示する これは正確な分析を行うのに非常に重要です。原材料のSDS、製品中含有量、製造方法など詳細に伝えることで、分析機関は最適の前処理方法を設計できます。分析の妨害になる成分が含まれている場合、その妨害を少なくする前処理方法や分析方法を用いることで正しい結果を導くことができます。
(5) 含有リスクを伝える 過去の分析で検出されたことがある、他社製品が税関で捕まったことがある、類似製品で違反例があるなどの情報は、分析する側にとっての有用な情報になります。
(6) 分析機関にまかせっきりにしない 依頼側も、わからないまでも分析について勉強し、方法や結果についてディスカッションすることで、分析機関との信頼関係も構築でき、結果として信頼性の高い分析ができることになります。

 

【物質の測り方シリーズ(その4:最終回)】

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物質の測り方シリーズ(4)  予期しない結果が出た時の対処方法
自社製品の納入先から、製品の揮発性有機化合物(VOC)測定を依頼されました。自社では測定できないため、外部の分析機関に依頼したところ、不検出という結果が出ると思っていたのですが、何十種類ものVOCが検出されたという報告書が届きました。その分析機関は、大手で、信頼できそうなので、結果をそのまま納入先に送ったら、これほどVOCが多く出る製品は受け入れることができないと言われました。このようなケースの場合、どのように対処すればよかったのでしょうか?

まず、技術的な話をしてみます。この結果が信頼できるかどうかは、分析機関の能力によるものが大きいと考えられます。使用した分析機器の感度、濃縮装置の能力、試料からVOCの発生方法、発生条件(温度、圧力、時間等)によって結果は大きく異なってきます。VOC分析に用いる機器の感度は著しく高くなっているので、最新鋭の分析機器をそろえている分析機関なら、ppm(10e-6)どころか、ppb(10e-9)ppt(10e-12)、ppq(10e-15)といった超微量分析も可能です。
しかし、高感度分析をして結果を出せばいいというものではありません。高感度分析を行うと様々な問題も見えてきます。
(1) 通常の大気中には、バックグランドとして多くのVOCが存在します。トルエン、キシレン、アセトン、エチルベンゼン、ジクロロメタンなどは、特に汚染されていない大気からもppb~pptレベルで検出されます。
(2) 素材の不純物、合成複製生物、加水分解物など、素材からは想像できない物質が検出されることがあります。
(3) 材料へのコンタミネーションも普通に起こります。材料を入れた袋や容器が汚染されていた。汚れた手で触ってしまった。使用しているうちに、使っている溶剤、洗剤、他の材料が付着した。
(4) 分析機器やサンプリング器具、標準物質などが汚染されていた。分析技術者のレベルが低かった。
これらの問題は、微量分析を行おうとするほど発生する可能性が高くなります。無理に数字を出そうとすると、信頼性も低下します。数字が出たら、報告する義務が生じますし、その数字の意味を説明しなければなりません。

次に考えなければならないのは、そもそもこのVOC分析は何のために行うかという点です。その目的によって、定量下限が異なり、それによって分析の難易度、分析費用が決まります。
(1) 大気汚染防止法で定められた「有害大気汚染物質」対策
(2) シックハウスに対応した、総揮発性有機化合物(TVOC)の室内濃度指針
(3) 労働安全衛生法における作業環境評価基準
(4) 機械などの性能維持のためのVOC基準(個社規格)
(5) 不具合の原因究明のための分析
などで、求められる濃度が異なりますので、この基準に基づく測定が求められ、その定量下限値はどのくらいかを知る必要はあります。むしろ、重要なのは、分析をする前の、分析目的を明確にして、依頼者が納得できる結果を出すための方法、定量下限値、問題解決に必要な情報の提供になります。

以上をまとめると、依頼者から分析を依頼されたときは、まずその目的を明らかにして、必要な分析方法と、定量下限値を設定する。分析機関と相談して、その目的に応じたレベルの分析を依頼する。予期せぬ結果が出た場合、分析機関とディスカッションして、その原因を究明する。分析上問題がないなら、コンタミや周辺状況を調査し、試料に含まれていることを確認する。その結果を委託者に知らせ、ディスカッションの上、含有の確認と原因究明を行う。
このような計画的な試験デザインと、委託者、分析機関とのコミュニケーションを密接に行うことで、短時間で、効率的に問題を解決できるのではないでしょうか。