
米国カリフォルニアの規制
【1. 米国カリフォルニアの規制】
カルフォルニア州の消費者保護政策 その1
1.アメリカ連邦法と州法の関係
連邦法と州法の関係は修正憲法第10条で連邦と州の関係が規定されています。憲法によって合衆国に委任されていない権限、または憲法によって合衆国に禁止されていない権限は、それぞれ州または人民の留保とする。
連邦政府の権限は、「貨幣の鋳造」「州間および外国の商業の規制」「宣戦布告」「軍隊の編成と維持」「郵便局の設立」「税金の課税と徴収」があります。このように連邦の権限は限定的であり、州に強い権限がありますので州法の確認が必要となります。アメリカは情報化が進み、情報提供も積極的ですので、ネット検索で容易に州法は入手できます。
各州の共通的な事項の“PFAS”はEPA(*1)、包装材は包装有害物質情報センター(The Toxics in Packaging Clearinghouse (TPCH))(*2)が、州法のリンクを貼ったWebページを公開しています。
日本企業は全米にビジネスを展開していることが多く、各州の情報が必要となりますが、特に、西海岸のカルフォルニア州の関心が高いようです。
化学物質が関係するカルフォルニア州の規制動向をご説明します。
2. カリフォルニア州の化学物質規制
カリフォルニア州は2008年に“California Green Chemistry Initiative(CGCI)”(*3)により、毒性物質管理局(Department of Toxic Substances Control DTSC)を設置しました。DTSCに、製品に含まれる化学物質や化学成分を特定し、懸念化学物質として優先順位をつけるプロセスを確立するための規則を採択すること(AB1789)(*4)の義務付と、特定の化学的危険性特性と環境および毒物学的エンドポイントデータの収集、維持、および配布のために、部門に有毒情報クリアリングハウスを設立することを義務付(SB509)(*5)が起案されました。それぞれ議会で採択されました。
CGCIは紆余曲折もあり、10年後にレビュー(*6)されています。
CGCIによりGreen Chemistry法が制定されて、「懸念される化学物質と見なされる可能性のある消費者製品中の化学物質または化学成分を特定し、優先順位を付けるプロセスを確立」が(カリフォルニア州規則集のタイトル20健康および安全規則 の第6.5章有害廃棄物の管理のGreen Chemistry [25251 - 25257.2])で規定(*7)されました。
CGCIは20年余運用されている連邦法のTSCAの効果の及ばない事項を補完する政策意図もあります。
“Green Chemistry”は、消費だけでなく「職場の危険を減らし、グリーンケミストリーの原則に基づいた本質的に安全な技術を開発するインセンティブを生み出すためには、化学物質の毒性、職場でのばく露、職業病に関するよりよい情報が必要」としています。
“Green Chemistry”により「消費者製品安全法(the Safer Consumer Products Regulations in 2013(SCP))が採択されました。SCP規則は、カリフォルニア州規則集、タイトル22、ディビジョン4.5、第55章(*8)に収載されています。
第11条に重点製品が収載されています。
消費者製品に含まれる有害化学物質を削減、グリーンケミストリーの原則の採用を増やし、消費者製品における懸念される化学物質のより安全な代替品を増やすために、SCPプログラムをDTSCが運用しています。
ステップ1
優先製品作業計画を3年ごとに発表し、その期間中に評価する予定の製品カテゴリーを定義する。
ステップ2
優先製品を特定します。これは、1つまたは複数の候補化学物質に人や環境を暴露する可能性があり、その結果、重大なまたは広範な悪影響を引き起こすか、またはその一因となる、特定の製品と化学物質の組み合わせです。正式な規則制定プロセスを通じて、優先製品をカリフォルニア州法にリストアップする。
ステップ3
カリフォルニア州で販売される優先製品の製造業者に対し、優先製品のリストアップ後60日以内に通知することを義務付け、以下のような重要な質問に答えるため、包括的な代替案分析を実施する: その製品にその懸念化学物質は必要か?より安全な代替品はあるか?代替品分析を実施する代わりに、カリフォルニア州の市場から製品を撤去するか、懸念化学物質を除去または代替することもできる。
ステップ4
代替案分析に基づき、優先製品に関連する有害な影響を低減または排除するための規制対応を行う。公衆衛生と環境に対して最大レベルの保護を提供する規制対応を優先する。
ステップ5
規制への適合を確認するための製品試験を実施し、必要に応じて強制措置を講じる。
ステップ6
Cal SAFERと呼ばれる情報システムを維持し、関係者がパブリックコメントやSCP規制の遵守に必要な文書を提出できるようにする。(*9)
作業計画の対象は以下です。
(i)美容、パーソナルケア、衛生用品
(ii)クリーニング製品
(iii)建設および改修に使用される建築製品および資材
(iv)子ども向け製品
(v)塗料
(vi)マイクロプラスチックを含むまたはマイクロプラスチックを生成する製品
(vii)自動車部品、付属品、メンテナンスおよび修理資材(旧自動車タイヤ)
(viii)食品接触製品(旧食品包装)
(ix)エレクトロニクス
(x)金属メッキおよび仕上げ施設で使用または生産される製品
(xi)ペットケア製品
(xii)スポーツ・運動用具
作業計画は優先製品を特定するものではなく、また、新たな規制要件や法的義務を生み出すものでもありません。作業計画に製品カテゴリを含めることは、それらの製品の安全性について何ら意味するものではなく、そのカテゴリの製品の販売を禁止または制限するものでもありません。
優先製品は、「人や環境に危害を及ぼす可能性のある候補化学物質を1つ以上含み」「規則でカリフォルニア州規制コードに正式に記載されている消費者向け製品」から特定されます。
製品と化学物質の組み合わせを優先製品として規制するかどうかを決定する際には、通常、特定の製品カテゴリ内の製品を評価します。現在評価している製品カテゴリは、3 年間の優先製品作業計画で特定されています。現在は2024-2026年作業計画が進行中です。
製品と化学物質の組み合わせを識別する際に、次の 2 つの主な要素が考慮されます。
(i)製品中の候補化学物質へのばく露の可能性
(ii)そのばく露が重大または広範囲にわたる悪影響を及ぼす可能性
特定の製品に含まれる化学物質が人間、野生生物、環境に及ぼす悪影響を評価する際には、敏感な集団への影響、廃棄物や使用後の影響、より安全な代替品の有無などの追加要因を考慮します。SCP 規則に規定されている主な要因に加えて、DTSCの決定は、次のようないくつかのポリシー上の考慮事項に基づいて行われます。
-当該テーマに関する科学的根拠はどの程度明確であるか、候補化学物質の危険性はどのようなものか、あるいは潜在的な悪影響がどの程度深刻で、蔓延しているか、あるいは広範囲に及ぶか
-優先製品の指定が、既存の法律や規制によって提供される保護を超えて、公衆衛生や環境の保護を有意義に強化するかどうか
-懸念される化学物質の代替品があるかどうか
優先製品特定された場合の製造業者の対応はFAQ(*10)に示されています。
Q1:候補化学物質と優先製品の違いは何ですか?
A1:候補化学物質とは、既知の危険特性および/または環境または毒性エンドポイントを持つ化学物質です。優先製品とは、少なくとも 1 つの候補化学物質を含む製品です。優先製品が規則制定を通じて正式にリストされると、それに含まれる候補化学物質はすべて懸念化学物質とみなされます。候補化学物質と優先製品の間のギャップを埋める包括的な規制プロセスには、徹底的な調査、利害関係者の関与、パブリックコメント期間、外部の科学的ピア レビュー、行政手続法 (APA) に従った規則制定が含まれます。
Q2:製造業者として、自社製品が優先製品である場合、いつ DTSC に優先製品通知を提出する必要がありますか?
A2:優先製品の製造業者は、優先製品を定める規制の発効日から 60 日以内に DTSCに優先製品通知を提出する必要があります。優先製品としてリストされた後にカリフォルニア州で初めて製品を販売する製造業者は、オンラインを含むカリフォルニア州で製品が初めて販売された日から 60 日以内に DTSC に優先製品通知を提出する必要があります。
Q3: 優先製品通知および関連文書は、どのように、どこに提出すればよいですか?
A3:優先製品通知は、Cal SAFER Web サイトから提出できます。代替分析レポート、削除/交換通知、延長リクエスト、および SCP 規制で要求されるその他の文書も、この Web サイトで提出できます。
Q4:優先製品を製造していますが、一般消費者ではなく、専門ユーザーまたは機関にのみ販売しています。DTSC に通知する必要がありますか?
A4:はい。製品が優先製品の定義を満たしている場合は、顧客が専門ユーザーまたは機関のみであっても、DTSC に通知し、規制の該当する要件をすべて遵守する必要があります。労働者は SCP 規制の下では敏感なサブグループと見なされます。
SCP 規制要件を遵守していない場合は一般市民に通知し、カリフォルニア州での優先製品の入手可能性を削減することを目的とした強制措置を講じられます。
不遵守リストはWebページで公開(*11)されます。
成形品も対象となり、個人家庭だけでなく職業ばく露防止の視点で労働者も対象となります。
※次月号にて、最近改正されたProp65掲載します。
出典・引用
*1:PFAS州法
https://www.epa.gov/pfas/us-state-resources-about-pfas
https://www.all4inc.com/4-the-record-articles/pfas-state-by-state-regulatory-update-july-2022-revision/
*2:包装材州法
https://toxicsinpackaging.org/the-clearinghouse/state-members/
*3:California Green Chemistry Initiative Report https://bcgc.berkeley.edu/sites/default/files/green_chem_brief.pdf
*4:AB1789
http://www.leginfo.ca.gov/pub/07-08/bill/asm/ab_1851-1900/ab_1879_bill_20080929_chaptered.html
*5:SB509
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=200720080SB509
*6:California’s Green Chemistry Initiative at Age 10:
https://senv.senate.ca.gov/sites/senv.senate.ca.gov/files/ca_green_chemistry_initiative_at_age_10-phi_final.pdf
*7:カリフォルニア州規則集のタイトル20健康および安全規則 の第6.5章有害廃棄物
の管理のGreen Chemistry [25251 - 25257.2]
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codes_displayText.xhtml?lawCode=HSC&division=20.&title=&part=&chapter=6.5.&article=14
*8:タイトル22、ディビジョン4.5、第5.5章
https://govt.westlaw.com/calregs/Browse/Home/California/CaliforniaCodeofRegulations?guid=IAF074F905B6111EC9451000D3A7C4BC3&originationContext=documenttoc&transitionType=Default&contextData=(sc.Default)
*9:優先製品作業計画
https://dtsc.ca.gov/scp/safer-consumer-products-program-overview/
*10:FAQ
https://dtsc.ca.gov/scp/faqs/#priority_products
*11:不遵守リスト
https://calsafer.dtsc.ca.gov/cms/search/?type=FailureToComply
一般社団法人 東京環境経営研究所
(2025年2月)